闇医者グレン 第12回 手術
ルーファスはすぐに、病院内にある会議室に3日後のヒューゴの手術に臨む医師たちを集めた。
名目は、より効果の高い術式への変更。
グレンは術式の発案者として紹介された。
医師たちは当初、それを冷ややかに受け入れた。下町で闇医者を営む男、グレン……
腕は信用できるのか?
悪名高い彼を知るものは少なくなかったのだ。
しかし、ルーファスの熱心な推薦と、グレンの語る高度な術式の説明を聞くにつれ、次第に反発するものはいなくなっていった。
そして手術までの期日、グレンとルーファスは術式をより確実なものとするために協議を繰り返したのだった。
また、看護師シェリーによってヒューゴのカウンセリングも続けられた。腕を失うと決まっていた時とは違って、少年の目は生き生きとしていた。
そして――ついに手術の日が訪れる。
ヒューゴの両親は仕事の忙しさのため今まで中々見舞いに来れなかったのだが、手術当日は息子を見送るために時間を作った。
「……行ってくるよ。」
これが最後の言葉になるかもしれない。
その状況で、彼は心配する両親に笑ってみせた。
2人の優秀な医師の存在が、手術への揺るぎない覚悟を与えていた。
医師たちはヒューゴを連れ、手術室へ。
消毒を行い、手術器具や最新の医療機器の準備も整った。
麻酔によって深い眠りにつくヒューゴの前に執刀医グレンが立つ。
ルーファス率いる他の医師たちもそれぞれの配置についた。
グレンは汚れた身なりを整え、手術用の薄青色の着衣を着ていた。ボサボサの髪をオールバックにまとめた姿は気品すら感じさせるものだった。
看護師シェリーも医師に混じって、グレン、ルーファスの助手を務めていた。シェリーはグレンに目配せを送り、彼はそれにコクリとうなずいた。
「それでは……手術を始める。」
グレンの手にメスが手渡され、いよいよ手術が開始された。
少年の白い腕には切開するルートが記されている。その上を慣れた手つきでメスが滑ると、その内側が露になる。
――人間がこの地に生まれてから長い間、人の体は徐々に進化し、最適化されてきた。
そしていつしか、導力器の歯車のように合理的に組み合う、素晴らしい機能美を持った。
だがそれは病気や怪我によって脆く壊れてしまう。それらに抗い、この芸術的な人間の肉体を、生命を守るのが医師の仕事なのだ。
グレンは手術に臨むたびにこの誇り高い仕事をしていることを喜び、才を与えてくれた女神に感謝していた。
彼の鮮やかなメスさばきで手術はスムーズに進行していく。
時々グレンの顔の汗を拭くシェリーも、執刀を補佐するルーファスも、麻酔や最新の機器を預かる医師たちも、グレンの極めて優秀な手術の腕に感嘆していた。それはまさに芸術といって過言はなかった。
そして、ついに少年の心臓が姿を見せる。
ここまで長い時間が経過していたはずだが、参加していた全員があっという間に感じていた。健康的に活動をするそれの表面には禍々しく黒ずんだものが張り付いていた。
……これが《結晶病》の腫瘍だ。
過去に恋人・カタリナの命を奪った元凶。
それをメスの射程距離に捉えた。
「あと少し……がんばって、ヒューゴ君!」
シェリーが眠る少年に声をかける。
――その瞬間、グレンの手が止まった。