赤い月のロゼ
アルフォンスは、静かになった地下墓所の中央で目を覚ました。 最初に見えたのは、自分を覗き込むロゼの優しい微笑み。 彼女からはすでに真紅の輝きは失せていた。 どうやら法術による治癒をやってくれていたらしい。さすがに全快とまではいかなかったが、な…
ロゼは、死を覚悟していた。 ガラードの“血の槍”で全身を射抜かれ、そのいくつかは内臓を深く傷つけている。既に治癒の法術を唱える力すら残されていなかった。 “吸血鬼狩り”を生業としてきた以上、心のどこかで分かっていたことだ。自分はいつか戦いの中で…
帝国軍の中でも、帝都の治安維持を任された部隊。通称『ガラード隊』隊長を務める壮年の男ガラードは、アルフォンスの上司であり、また、両親を亡くした彼を引き取って育てた父親同然の男でもあった。 最近、帝都を恐怖に陥れる『吸血鬼事件』の解決に尽力し…
ロゼは、エルロイの振り向く一動作から冷静に分析した。先ほどの戦闘で与えたダメージは全て修復されていることを。それどころか、比べ物にならないほどにその力を増していることを。 地下道にいた数十体もの屍人を生み出す過程で取り込まれた血液の量――それ…
宿酒場《アレグリア》。普段なら、顔なじみばかりで席が埋まっているはずの深夜の時間帯。しかし今夜は吸血鬼事件に関係する伝達がされた影響か、ただの一人も客はいなかった。 ここで従業員として働くルッカは手持ち無沙汰に店内の掃除をしていたが、それも…
「吸血鬼狩り……現れたか……!」 吸血鬼エルロイは、歯軋りをしてロゼを睨みつける。法剣によって落とされた右腕はシューシューと赤い煙を上げていた。ロゼはアルフォンスに向けていた顔をそちらに向きなおし、無表情のまま法剣を構える。 じりじりと間合いを…
帝都の夜に、再び真っ赤な月が出ていた。妖しくも不気味な、深紅の満月。それは数日前よりもさらに色濃く輝き、緋のレンガの町並みを染め上げている――まるで、血のように。 吸血鬼事件による10人もの被害者が発見されたことを受け、この夜、ガラード隊の隊…
――あなたの協力はもはや必要ありません。 ロゼの凄まじい戦いぶりを思い出していたアルフォンスは、その言葉を呆然と受け止めることしかできなかった。 反論はいくらでもあった。吸血鬼の正体はまだ分かっていない。それを突き止めるために帝国軍に所属する…
夜の帝都は、しんと静まり返っていた。 日中、帝都の治安を守るガラード隊から『吸血鬼事件』の犯人と思われる人物についての通達があった。具体的な犯人の特徴が伝わり、人々の事件への恐怖がさらに高まるとともに、事件への警戒心も高まった。この夜の静寂…
「こいつが『吸血鬼事件』の犯人……か」 ガラード隊長は、出来上がってきたスケッチを真剣な顔で眺めていた。 アルフォンスは吸血鬼と遭遇した次の日の朝、ガラード隊長にそれを報告した。 彼に手渡されたスケッチブックは、アルフォンスの証言をもとに描かれ…
月に照らされる帝都を、2つの影が走っていた。 先を走る紫紺の外套をはためかせる影――ロゼは、目をカッと見開いたまま機敏にあたりを見回し、吸血鬼の姿を探す。女性のものとは思えない俊足についていく2つ目の影――アルフォンスもまた、ロゼに倣って辺りを…
翌朝、アルフォンスは部隊の隊長ガラードの執務室にいた。『吸血鬼事件』を個人的に調査するための許可をとりに来たのだ。 ガラード隊長は頭をポリポリと搔きながら、その歳の割りには精悍な顔で息子のような存在でもあるアルフォンスを怪訝に眺めている。 …
一瞬見えたのは幾何学的な模様だった。 ブーツの靴底だ。それが、アルフォンスの目の前を通過した。 それは、強烈な破壊音と共に、牙を剥く女性を吹き飛ばした。突然目の前の景色が夜空に切り替わり、体の束縛が解かれた。押しつぶされる寸前だった喉に空気…
歴史はおおよそ200年ほどの昔、中世の時代に遡る。 西ゼムリアの大国・エレボニア帝国で《獅子戦役》が終結し、その立役者であるドライケルス帝が没してから十数年の月日が流れたその時代。 帝都ヘイムダル。緋色のレンガを基調とした建物が建ち並び、《緋の…
今後の投稿予定をば取り急ぎ…というのは建前で、いっつも記事投稿は予約でやってるんですが、その時カテゴリー分けするのに公開した記事しかカテゴリー判定してくれないんで、タグをごちゃまぜにしたものを置かせていただきたい(笑) あ、ちなみに動画をあげ…