人でなしのエドガー
「ここに、エドガーという青年はいるかい?」 予期していなかった名前に、顔が強張る。 「普段はこの食堂にいると教えられて来たのだが」 「彼は、もう……」 そう言いかけて、止めた。 「今日は、まだ来てませんよ」 「そうか。ヘンリーくんは?」 首を振ると…
ぼくは作業台に寝かされていた。 「よう。お目覚めか」 顔を少し傾けると、ヘンリーが部屋に入ってくるのが見えた。上体を起こすのに、余計な時間がかかる。 「おかしいな、上手く体を動かせない」 「後頭部を傷つけられたからな。“大手術”だったんだぞ」 う…
「言っている意味が、よく分かりません」 戸惑う私を見下ろして、ヘンリーさんは口を開いた。 「人工知能。俺たち人間の脳の働きを機械に行わせる。 機械人形のような傀儡よりもずっと先進的なシステムだ」 「……」 「エプスタイン財団はその方面の開発を進め…
私は、名前を叫ぶことしかできなかった。直線状に彼はうつ伏せに倒れていて、そのまま動かない。体が傾いた瞬間の、何か言いたげな眼差しが頭をよぎる。 すぐに傍に駆け寄ることも、地面に放り出された大枝を手に戦うこともできなかった。標的を変えた魔獣た…
「人の記憶って不器用だよね」 遠くから、君の声がする。 「嬉しいことも嫌なこともぼんやりと覚えていて、 年を取りながら気づかないうちに順番に忘れていく」 「……」 「でも、苦い思い出の方が頭に残ってることが多いのは、神様からの戒めなのかな」 「………
「なぁ、この場所はヤツらの縄張りじゃないよな?」 少し離れたところから、ヘンリーが声をかけてきた。 「そんな言い方すると、今度から助けてもらえないよ」 「ケッ、構わないね。人の努力を踏みにじる上に、融通も利かない連中だ。許すまじ」 もはやホタ…
町から数アージュ離れた一帯に広がる、ル=ロックル渓谷。切り立った両側の崖が、深く細長い谷を形作っている。そのせいか、朝とはいえ絶壁の谷間は薄暗かった。 ふと、外界と遮断された感覚に陥る。 「空が、狭い」 遥か頭上を、2羽の鳥が横切って行った。…
昨夜の事情聴取は、状況を説明しただけで早々に終わった。相手の男も厳重注意を受けた後、程なく解放されたらしい。 「まったく。迷惑なヤツだよおまえは」 そして今朝。財団の宿舎で顔を合わせた時点で、彼の機嫌は悪かった。 「俺が待てって言ったのも無視…
いつからクレムのことを想っていたのか。「何月何日のどの瞬間だ」という記憶は無い。でも、この不思議な感情は嘘偽りなくぼくの中にあって、それが彼女に対して向かっていることもまた偽りじゃない。 気がつけば食堂に足を運んでいて、気がつけばクレムの姿…
カーテンの隙間から、淡く光が漏れている。のっそりと起き上がって、寝ぼけ眼で窓に近づく。結露でいっぱいのガラスを指で撫でると、そこだけ太陽の温かさを感じられる気がした。 後ろを振り返れば、君の寝顔がある。鼻がくっつくくらい顔を寄せたけれど、ピ…
今後の投稿予定をば取り急ぎ…というのは建前で、いっつも記事投稿は予約でやってるんですが、その時カテゴリー分けするのに公開した記事しかカテゴリー判定してくれないんで、タグをごちゃまぜにしたものを置かせていただきたい(笑) あ、ちなみに動画をあげ…