徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

闇医者グレン 第9回 シェリー

「お前が……カタリナの妹だと!?」

驚愕するグレンにシェリーはコクリとうなずく。その眼は真っ直ぐにグレンを捉え、とても嘘を言っているようには見えない。

 

カタリナと歳の離れた妹、シェリル。

何度か会ったこともある。

カタリナの入院時にはよく見舞いに来ていたし、手術室の直前まで付き添っていたのを思い出す。

改めて目の前にいるシェリーを見なおすと、確かに面影がある気がした。

凛とした表情がよく似ている。そんな事に気づかないほど、人との関わりを雑にしてきた自分を恥じる。

――すると、シェリーが話し始めた。

「姉さんが命を落とした、《結晶病》を治す新しい術式…… 死の危険性すらある手術を、なぜ姉さんが受けるつもりになったか。グレン先生は考えたことがありますか?」

「……再びバレリーナとして舞台に立つためだ。」

当然のようにグレンは答えたが、それをシェリーは首を振って否定する。

「それだけじゃないんです。先生が新しい術式を見つけた日の夜、姉さんはそれを『試したい』と言いました。私は反対していました。とても危険な手術と聞いていたから…… バレエなんか諦めてほしいと言いました。だけど、姉さんは迷いのない顔でこう言うんです。」

シェリーは眼を瞑り、胸に手を当てる。

亡き姉が昔、病床で語ったことを思い出していた。

『――私が手術を受けたいと思うのは、バレエのためだけじゃないの。……この《結晶病》という病気は、とても恐ろしい病気よ。私も強がっていたけど、助かるために足を失うしかないと言われて、絶望したわ。だけどグレンが新しい術式を見つけてくれて、心の中に暖かい光が差すのを感じたの。多分、これが希望っていうものなのね。この術式が広まれば、他の《結晶病》の患者にとっても大きな希望になると思うわ。でも、まだこの術式は命の危険が伴うような不完全なもの…… だからまず、私で試して欲しいの。成功するにしろ、失敗するにしろ、きっとグレンなら何かを掴んで、より完璧に近いものにしてくれる。将来、きっと《結晶病》なんて怖くない病気にしてくれる。私の愛するグレンなら、きっとやってくれる――』

――姉の想いを告げるシェリーに、グレンはカタリナの姿が重なるのを感じた。

「……姉さんが死んでしまったのは確かに悲しかったけど……姉さんを助けようとするグレン先生とルーファス先生の姿は私の目に今も焼きついています。私が看護師を目指そうと思ったのも、お2人への尊敬があったからです。だから先生、後悔なんてしないでください――」

シェリーは長い話を終えると、深々と頭を下げた。そしてしばらくの静寂のあと顔を上げると、静かに診療所を後にした。

グレンは椅子に座ったまま黙り込んで、シェリーがいた一点を何時間も見つめ続けた。

さっきまでの苛立ちは嘘の様に消えていた。

10年前のカタリナの想いを知った。

カタリナの妹・シェリーは「後悔するな」と言った。

ならば、自分は彼女たちにどう応える?

 

――翌朝、グレンは床に散らばった古びたファイルの中身を拾っていた。

彼の瞳には、確かに決意の色が映っていた。

 

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