徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

陽溜りのアニエス 第9回 22枚の運命Ⅱ

 

 

ティセという 少女は見た目よりも幼いみたいで、カードの意味を1枚1枚知りたがった。 カウンター席に並んで座り、ティセに読み聞かせるようにして、アニエスはタロットを進めていく。結果は……うん、悪くない。

「 そうね、私の見たところ…… ティセちゃんのお父さんの仕事は、もうほとんどうまく行ってるんじゃないかな?」

きっと大丈夫よ、とアニエスは笑ってみせた。 とびきり明るく笑って礼を言ったティセだったが、感謝したいのはこっちだ。 イライラしていたのが嘘みたいに治って、本当の自分に戻れた気がする。扉の鈴をカラカラ鳴らして出ていくティセに、アニエスは最後まで手を振ってみせた。

 ……さてエドの事を占ってみよう。席に戻ったアニエスは念入りにタロットを繰った。 手の平が少し汗ばんでいるみたいだけれど関係ない。「関係ないわ」とアニエスは呟いた。

 本気で占うときの方法は決まっている。強く念じて1枚だけ引く。アニエスの場合、これが一番確実だった

 ――さあ、エド、一体何をしようとしているの……?

「……お姉さん! 1枚落ちてるよ?」

「えっ……?」

いつの間にか傍にティセがいた。ティセは床から1枚のタロットを拾い上げる。ありがとうとそれを受け取って、アニエスは固まった。

 

 ――DEATH。 死神のカード。

ひどい眩暈を覚えたアニエスは少女が立ち去った事にも気づかなかった。

 蛇口の水漏れの音が止まった。左手にあるタロットたちがそっと動き出し、1枚また1枚と宙に浮いていく。それでもアニエスは気づかない。ただ食い入るように、死神のカードを見詰めていた。

 

 ズシン、と重い衝撃にアニエスは我に返った。カゲマル? カゲマルが頭の上に乗っている。その拍子に力を失ったタロットたちが バラバラと落ちた。カゲマルはひらりとカウンターに降りて、そのとろんとした目をアニエスに向けた。何やってるのさ。その目はそう言っている。「わ、わかってる。ちょっと驚いただけ……」

落ちたタロットを集めながらアニエスはそんなことを言っている自分の声を聞いた。叔父さんもパデュー爺さんも気付いてないみたいだ。でも今のは危なかった。もう止めた方がいい。このことは忘れて、はやく仕事に戻ろう。

 ……………でも…………

アニエスはDEATHをカウンターに置き、もう一枚タロットを引いた。同じ事柄を2度占うことはできないから、今度はこの一週間エドが追い続けている"何か"が何なのか、それを占おうとした『……ガガッ………次のニュースです、本日午後1時40分ごろ発生した交通事故についてですが……』

……導力ラジオが勝手に点いた。占う力が強すぎたかもしれない。ふらつきを覚えながらタロットを確認すると、それはSUNの逆位置。つまり『闇』だ……

 ここ最近、事故が多すぎる事にはアニエスも気付いていた。つまりこれは一連の事故を『闇』に関係した何かが引き起こしていて、エドは――どうしてか分からないけど――それを知って、今1人で『闇』に踏み込んでいるということで……

 「ブニャー!」カゲマルが眠そうな顔で嗜める。わかってる! でも叔父さんもパデュー爺さんも気付いてない! アニエスはもう一枚タロットを引こうとしてやめた。エドの居場所なら通信社に問い合わせた方が早いかもしれない。大時計の隣にある通信機に駆け寄って、 アニエスイートン通信社にコールした。

「うーす、こちらイートン通信社だ」

「……あ、ブランドンさん。すみませんけど…… 昼前にエド、 どこかに取材に出かけましたけどどこへ行ったかご存知ありませんか?」

エド?はは……何言ってんだよ。エドウィンなら朝から大人しいもんだ、ずっと席で仕事してるぞ?」

 

 アニエスは今度こそ青褪めた。エドが席にいる?……違う、それは本物のエドじゃない!!

  表の通りからけたたましい音がして、へしゃげた導力スクーターが弧を描いて飛んでいくのが見えた。 運転していた男は、地面に激突する前に死んでいるようだった。それでも叔父さんもパデュー爺さんも談笑をやめなかった、肩をゆすっても全く気づかなかった。アニエスは世界がぐらりと傾くのを感じてうずくまり、初めてこの街に何か恐ろしい力が働いていることを知った。

 

 ……立たなくちゃ………

テーブルの上にDEATHのカードが見えた。アニエスが信じられるのは、もうそれだけだった。

 

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