賭博師ジャック
明け方の港へとジャックたちは戻ってきた。 巨大な船影は幻のごとく、朝霧の彼方へと消えた。 「……私をどうするつもりなの?」 「どうするも何も、お前はもう自由だ。」 「今後はその命を引き合いに 使われることもないだろう。」 「好きにするといいさ。」 …
「貴様はこの娘に毒を盛り、 キングを脅していたんだな!」 ウォンの口から飛び出した一言に ハルは打たれたように身を硬くした。 観客の間からも、驚きの声がもれる。 ウォンの追求にエンリケは必死の弁解を続けた。 どうにか動揺を抑えようとしたが、 彼に…
2人の勝負は ジャックの劇的な逆転勝利で幕を閉じた。 ジャックの言動はさておき、 ウォンは勝利したことに安堵していた。 頭を抱えてしゃがみ込むエンリケとは対照的だ。 ハルは呆然とカードの並びを見つめていた。 彼女には、自分の見ている物が信じられ…
「ジャック、あなた おしゃべりばかりで勝負の方は全然ね。」 「……もういいわ。 早めにケリを付けてあげる。」 静まり返っていた会場を 再び興奮させたのはハルのその言葉だった。 よほど自信がある手なのか、彼女は 勝負時とばかりにチップを全額投入した。…
小さなカード台をはさみ2人が対峙する。 2人の目の前にはチップの山。 どちらか一方の山がなくなった時、 それが、この勝負の決着する時だ。 時計の針が深夜の0時を指す。 ジャックとハルの大勝負が静かに始まった。 ――勝負は一進一退。 ジャックが勝てば…
ハルがエンリケの部屋に控えている一方、 ジャックは広間のバーカウンターに腰掛けていた。 ここからは勝負の舞台が一望できる。 彼は、頼んだ酒に口もつけず、 ただ戦いの舞台をしげしげと眺めていた。 変わらない面子に変わらない景色。 見つめれば見つめ…
時計の針が夜の11時を示している。 ジャックとハルの勝負は0時の開始だ。 ハルはエンリケの部屋でその時を待っていた。 『あなたの父親は、 7年前に病気で亡くなった。』 母親からそう言い聞かされて育った少女は、 3年前、父が勝負で死んだことを知った―…
船は音も無く、 なめらかな暗闇の上を走っていた。 静けさに満ちた外界と裏腹に、 鋼板1枚を隔てた船内には ありとあらゆる光と騒音とが溢れていた。 大陸各地から集められた調度品に 陽気な音楽を奏でる楽師たちの一団…… 王国から輸入されたシャンデリアの…
ハルが酒場を訪れた次の日の夜、ジャックは あのカード内容に従って港に向かっていた。 珍しいことに、酒は一滴もやっていなかった。 誰かに尾けられているのは気づいていた。 ジャックにはそれがエンリケという男の 使いであることもわかっている。 「安心…
ハルの指が導力銃の引き金にかかる。 この酒場に、彼女を止めるような 勇気のある者などいない。 ゴロツキどもはただうろたえ、 遠巻きに騒ぎ立てるだけだった。 「てめえら、うるせえぞ!」 イラついたジャックが一喝する。 すると、ものの見事に静寂が訪れ…
結果は……少女の勝ち。 静まり返った酒場を、通りの喧騒が駆け抜けた。 「くく……くくく………」 ジャックは込み上げてくる笑いを抑え、 少女に問いかける。 「おい嬢ちゃん、一体どこで こんな腕を身につけたんだ?」 少女は言葉を返さない。 代わりに彼女はカー…
ジャックと少女は、奥のテーブル席に向かった。 そこはギャンブル専用なのか、 丁寧にニスで磨き上げられている。 言葉を交わすこともなく、2人は席についた。 ジャックが壁を背に、少女はそれに向き合う形で。 ゴロツキどもはそんな2人の様子を盗み見てい…
少女は店内に踏み込み、後ろ手に扉を閉める。 どうやら店を間違えたワケではないらしい。 まだあどけなさの残る表情…… どれだけサバを読んでも18がいい所だ。 実際は15、6だろうか。 暗褐色の瞳と髪の毛からして東方系だろうが、 鼻筋の通った顔立ちを…
――カルバード共和国。 この国には東方からやって来た移民たちが、 故郷を想い、故郷に似せて築き上げた街がある。 俗に「東方人街」と呼ばれるこの街は いつも人々の活気と熱気で満ち溢れている。 古びた導力バスの走る大通りには 香辛料をきかせた東方料理…