徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

闇医者グレン 第1回 闇医者

『美しき北の公国』レミフェリアは、

医療先進国として名を馳せている。

 最新設備の整った病院には優秀な医師が集まり、

優良な医療機器メーカーがしのぎを削っている。

 

 しかし、医療の発達したこの国にも影の部分はある。

 例えばこの「下町」は導力化が後回しにされ、

公都にあるような立派な病院はない。

 北国独特の肌寒さが際立つような寂しい街。

 そこには、診療所がたった1軒のみだ。

 

 築40年の建物は見るからに老朽化しており、

まともな開業医は期待できないように見える。

 ――その屋内に今、2つの人影があった。

 

 「ひゃ、ひゃ、100万ミラだと……⁉」

 その一方である老人は、請求書に記された予想を上回るゼロの数を見て素っ頓狂な声を上げた。

 老人に相対するのは、ボサボサの髪の毛に手入れされていない無精ひげを蓄える30代半ばの男。

 筋肉質の巨躯に薄汚れた白衣を着ていなければ、

一目で彼を医師だと気づける人間は少ないだろう。

 「あぁ悪い、ケタが一つ間違ってたようだな。」

 低く通る声で答えた医師は、請求書にもう一つゼロを足した。

 10倍に跳ね上がった数字を再確認して、

老人の顔色は焦りの青から怒りの赤へと変貌する。

 

 「ぼ……暴利だ!

 こんな馬鹿げた治療費、払えるわけがないだろう!」

 それはレミフェリアの法に定められた、

医師が患者に請求できる上限を遥かに超える額だ。

 しかし、怒りをあらわにする老人を見てなお、

医師はにやりと口元をゆがめて笑っていた。

 「あんたが今までたんまり稼いできた汚いミラがあるだろう?」

 この老人は、俗に言う悪徳政治家だ。

 贈収賄や脱税など、数々の黒い噂が絶えない。

 ある日、老人は3発の銃弾を受けてここに運び込まれた。

 恐らく、公にすると政治生命を絶たれるような“何らかのトラブル“に巻き込まれたのだろう。

 だがこの医師は、それらを追求せずに老人の体から弾丸を摘出する手術をした。

 ――要するに、口止め料込みの手術代なのだ。

 「命の代金としちゃ安いもんだと思うがね」

 脅迫ともとれるその言葉に老人は逆上する。

 そして隠し持っていた導力銃を医師に突きつけた。

 医師はそれでも笑みを崩さない。

 

 「……実は、あんたの体にはまだ銃弾が残っている。

 俺を殺せばそいつは取り除けなくなるぜ。」

 そう言って、老人の腹部に人差し指を当てる。

 

 手術痕のない皮膚の下に硬い感触があった。

 医師は、わざと銃弾を摘出せずに残していたのだ。

 老人はその鈍痛に、銃を落としてうずくまる。

 「……で、払うかい?」

 医師は、再手術はサービスしてやると続けた。

 彼を見上げた老人の瞳から怒りの炎が消失する。

 残ったのはただ、医師への恐怖のみだった。

 

 ――診療所の開業医の名は、グレン。

 天才的な外科医術の腕を持ちながら、

 広告に存在するどの病院にも属していない。

 

 

 政治家、密入国者、殺人犯に至るまで、

訳アリの患者の手術ばかりを請け負い、

法外な治療費を請求する“闇医者”だ。

 

 数日後、グレンはボロい椅子に座って、

1000万ミラの納められたケースをつまらなそうに眺めていた。

 

 窓の外を見ると、雨が降っていた。

 北国のレミフェリアでは珍しい、大粒の雨だ。

 この天気じゃ、今日は客は来ないだろう――

 ふと、聞こえていた雨音が急に強くなった。

 「――ごめんください。」

 その声に、グレンは振り向く。

 診療所の玄関に1人の看護師が立っていた。

 

 

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