賭博師ジャックⅡ 第11回 前半戦
第1レースが開始する直前、ジャックとレナードが互いにチケットを示す。
ハルにも意見を聞いたうえで番号を選んだジャック。
内容は『5-1-3のトリプルに1万ミラ』――
トータルでの勝率が一番高いトップ2に最近勢いのある3番を組み込んだ、
ある程度の手堅さとギャンブル性を兼ね備えたチケットだ。
昔と変わらないジャックの買い方に「相変わらずだな」と笑うレナード。
なお彼のチケットは『1-3のデュオに2万ミラ』――
ジャックには意外だった。
かつてのレナードであればここは手堅く「1-5のデュオ」、
あるいはもう少し突っ込んで「5-1のダブル」とする所だ。
だがレナードが選んだのは、二番人気の「1」と勢いのある「3」の組み合わせ。
……これはどちらかというと、往年のキングを彷彿とさせる買い方だ。
「フフ、私も政治の世界で色々なことを学んできたからな」
動揺を隠しきれないジャックにレナードが語りかける。
そして15分後、第1レースの結果が出た。
1~3着は「3-1-5」――
3番が勢いに乗り、、見事1位の栄冠を手にした形だ。
結果、レナードが見事的中し、ジャックは外れ。
ジャックは手持ちを9万に減らし、一方のレナードはいきなり15万近くまで増やした。
「ふふ、いきなり当てちゃうなんてすごいわね」
そうねぎらうニケに「これも君のおかげさ」と、その肩を抱き寄せるレナード。
そんな二人のやり取りに目をそらすジャック。
「集中して、勝負はこれからよ」とハルに激励される。
だが、いきなりついた6万の差は決して小さくない。
第2レース――
ジャックはまたしてもトリプルに1万ミラ、対するレナードは今度は手堅くマルチに。
ただし、先ほど勝った5万ミラを全て賭ける。
結果、ジャックははずし、レナードがまたしても的中させる。
ジャックは手持ちを8万に減らし、レナードは17万を超えた。
この時点ですでにその差は倍以上だ。
第3レース――
ジャックはまたしてもトリプルに1万ミラ、
対するレナードは多少強気にダブルに2万ミラ。だがこれは両者ともはずした。
そして前半を締めくくる、第4レース――
ジャックは懲りずにトリプルに1万ミラ。
その譲らぬ構えにニケとレナードが苦笑するが、ジャックはぶれない。
対するレナードは再びダブルに――今度は3万。
結果、何とレナードはまた的中させた。
前半戦を終え、ジャックは残り6万、レナードは……24万強、これでその差は4倍だ。
「フフ、今日は本当についている。なあ、ジャック?」
レナードの挑発に無言を貫くジャック。
なお後半のレースが開始するまで、約1時間の休憩が挟まる。
ジャックはハルを促し、足早に用意された控え室に向かった。
「ジャック、どうするの? このままじゃ……
後半はもっと確率の高いチケットを……」
「いや、それだと仮に当てても逆転は難しい。
弱気になったらその時点で負けだ。だから退くわけにはいかない」
「それはそうかもしれないけど……」
ジャックもそんな風には言ったものの、具体的な対策については考えあぐねている状態だ。
ただ、もはや直感だけを信じて勝てる状況にないことは明らかだった。
「そういえば、データを見ていて気になったことがあるんだけど……」とハル。
数字の羅列を見ていて、何かに気付いたらしい。
配当率というのは、基本的に勝率と人気の高いチームが低く、
逆に勝率と人気が低いと高くなる――これが基本だ。
だがここで行われるレースギャンブルは、
単純にそれらの計算だけで配当率を決めているわけではない。
たとえば今日のようなビッグレースでは平常時より割り増しの配当率が設定されており、
それだけ客のもらいは大きい。
また万年負け続けるチームは勝率が低いために高配当だが、
それゆえに、逆に人気が集まることもある。
そうなると当然配当率は下がるのだが、下がりすぎないよう計算式が設定されている。
配当率にはドラマを盛り上げるための仕掛け――
言うなれば血の通った設定が施されているのだ。
だが、それらを考慮に入れても配当率に違和感のあるチームがあるというハル。
確認すると確かに……
とはいえ、それでも誤差程度の違いなので普通の人間にはまず気付けないレベルの差だが……
なおそのチームのドライバーを務めるのは、
未だ破られていない公式レースの連勝記録を保持し、
今も現役を続ける最高齢のベテラン選手――通称《レジェンド》こと、カルロスだ。
だが近年は勝ちから遠のき、“万年二位以下のレジェンド”などと揶揄されている。
実はキングの友人で、ジャックとも過去に面識がある。
「サンキューな、ハル。俺はこのまま少し出てくる――
休憩が終わったら、先にVIPルームへ向かっていてくれ」
「ちょ、ちょっと……!」
ハルの返事も待たず、ジャックは颯爽とどこかへと消えた。