徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

賭博師ジャックⅡ 第13回 魂の額

――最後のレースは第6レース以上に大盛り上がりの展開を見せた。

 

まず一番人気の「4」がマシントラブルでまさかの途中リタイヤ。

それに続いていた二番人気の「3」と三番人気の「6」がそれぞれトラブルに巻き込まれ、

リタイヤとまではいかなかったものの大幅に失速。

 

実質残り9台で展開するレース。

その中でも一番勝率の高い「1」は、「5」の執拗なブロックに遭い、

順位を上げられずにいる。

 

その状態で先頭争いを繰り広げるのは、頭から順に「7」「2」「12」。

なお「12」はカルロス――

“万年2位以下のレジェンド”と呼ばれる男がトップ争いに絡む熱い展開だ。

 

そして最後の勝負所である最終コーナー――

浮き足立ってか微妙に膨らんだ「7」「2」の隙を縫い、

ベテランのカルロスが鋭いハンドル操作で華麗に抜き去る。

 

――結果、第7レースは「12-7-2」で確定。

何と……1位はカルロス。

観客は長年沈黙を続けた《レジェンド》の見事な復活劇に酔いしれ、

今日一番の大歓声で迎えた。

 

そんなレース場の様子をレナードが不機嫌そうな表情で見つめる。

 

「もしかしてはずした?」とハル。

だがレナードは――

「フフ、流石にレジェンドが1位になることまでは予想できなかったものでね。

だが、彼がトップ3に食い込んでくれることは信じていた。

私が買ったのは、2‐7-12の“トリオ”……120倍のダブルオーチケットだ」

「…………!」

ジャックとハルに衝撃が走る。

しかもレナードは40万ミラを投入――実に4800万ミラの払い戻しだ。

「フフ、驚いて言葉も出ないようだな」

「ええ、どうやらそうみたい」

 

レナードとニケが勝ち誇る。だが――

「って、なんちゃって」

ハルが舌を出し、ジャックが続く。

「ああ、驚いたのはフリだフリ」

 

「何が言いたい?」「まさか――」

訝しがるレナードとニケに向かってジャックが言い放つ。

 

「俺が買ったのは12-7-2の“トリプル”――

1100倍のトリプルオーチケットだ!」

 

「…………………!!」

レナードとニケが絶句する。

 

トリプルオーチケットとは、その名の通り配当率が1000倍以上となるチケット――

ダブルオーチケットが数ヶ月に一度出るか出ないかだとすれば、

こちらは数年に1度出るか出ないかという極めてレアなチケットだ。

それによりジャックが手にする額は5500万ミラ……

レナードの4810万を上回る。

 

「貴様、なぜそんな……!」

 

「俺にそれを聞くってことは自らの不正を認めたようなもんだぜ。

だがそれでも知りたいってんなら教えてやる。

俺はな、レナード。カルロスを買収したのさ」

 

「買収、だと……」

 

「ああ、実はさっき知り合いに同じチケットを買うように手配してきたんだ。

元手は俺の信用でその場でかき集めた10万ミラ……

これが1100倍で、締めて1億1000万ミラ。

こいつをそっくりそのままやるって言ったのさ」

 

「バカな、奴にはちゃんと定期的に……

いくら大金とはいえ、なぜそんな目の前の利益に……!」

 

「いいかレナード……

確かに人の心ってのは、ミラで買えることもあるだろう。

だが、“魂”ってやつだけはいくらミラを積もうと買えはしない。

カルロスが俺との取り引きに応じたのがいい証拠……

本当はもっと前から手を引きたかったんだと思うぜ」

 

「くっ、知ったような口を……」

 

「だが流石はレジェンド……

何人かで結託していたとはいえ、いつも後方からレース展開を操っていたとは。

まったく、恐れ入るぜ」

 

「でもレナードさんは順位まで含めて指定してたんだよね?

だったらなんで“トリプル”じゃなくて“トリオ”なの?

しかも、最後に全額じゃなくて10万ミラを残すとか……」

 

「それはまあ、“保険”ってことだろう」

 

……図星だった。

勝負に勝つための種をいくら仕込んだ所で、不確定要素を完全に取り去ることはできない。

あらゆる手を尽くした上で、かつ最も確実な手段を取る……

それがレナードのやり方だった。

 

「ふぅん、でもそれで足をすくわれてたんじゃあしょうがないわよね。

全額賭けていれば、ジャックに勝ってたのに」

 

「な、なに……」

すぐさま計算し、事実に気付くレナード。最後に50万、全額を賭けていれば6000万、

ジャックが手にした5500万を超える

 

「……そうだ、これは手違いだ。

実際にチケットを買った部下が番号を聞き間違えたのだ……!

だから私は負けていない……!」

 

「――そのくらいにしておいたら?」

それはニケの言葉だった。

 

「レナード……

あなたさっきのレースで一番人気のマシンに細工をしたわよね?

証拠は見事に隠滅されていたけど……

やると分かってマークしていれば話は別よ。

残念だけどレナード……

あなたの悪事はとうとう白日の下にさらされてしまった」

 

「何のつもりだ……

お前は一体何を言っている?」

 

「ま、それはこれを見れば分かるわ。

――入りなさい」

 

ニケの合図でVIPルームにレナードの部下たちとは異なる黒服たちが入ってくる。

そしてレナードとそのボディガードを取り囲む。

「観念しろ、レナード!

既に他の部下たちは無力化した!」

 

「ニケ、これは一体……」

ジャックの疑問に、ニケが懐から取り出した眼鏡をかけて答える。

 

「ふふ、改めて自己紹介させてもらうわね。

大統領府直属の諜報機関・《ロックスミス機関》のスタッフ……

それが今の私の“本当の肩書き”よ」

 

……ジャックとハルはただただ面をくらった。

 

 ←前話                                →次話