徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

『ディストピアへの途(みち)』

  ――『ディストピア』という言葉をご存知だろうか?

 

 昨今、所謂“革新派”とされる勢力の言説によれば、旧態依然たる貴族体制を批判する際、それに代わるものとして皇室を頂点とした平等な身分制度と、強い国家としての充実を最優先すべしといった主張が見受けられる。それこそが帝国と全ての帝国人が目指すべき理想郷(ユートピア)であるとも。

 

 対する“貴族派”の言説は伝統の尊重一辺倒になりがちで、論理的な主張と言い難く、革新派の勢いに押されつつあるのが現状と言えるだろう。筆者も貴族性そのものに肯定的な立場を取るものではないが、それでもこの数年にわたる政治状況を見ていくと、首を傾げざるを得ない。

 

 その最たるものが、帝国政府代表ギリアス・オズボーン宰相の言動と施策である。革新派のリーダーとして知られる平民出身の同氏だが、宰相就任時に爵位を与えられながらも、あらゆる場面で身分制の排斥を訴え、また強硬に実行に移してきた。そのことが貴族勢力との間で火種となっているのは言うまでもないが、問題の本質はそこにあるのではない。

 

 彼の演説で幾度となく強調されるのが『激動の時代』という言葉である。確かに導力革命によってあらゆるものが加速し、領土のみならず経済という分野での争いが帝国内外で激増しているのは事実で、その主張は正鵠を射ているようにも見える。

だが、よくよく注意深く観察していくと、それらの対立や動乱の多くが帝国政府の強硬かつ巧妙な介入と、宰相自身が立ち上げた帝国軍情報局の工作の結果だと気付くはずだ。

 

 6年前に併呑(へいどん)されたジュライ市国、露骨な税制改革に敵意を募らせる大貴族たち、鉄道網拡張で犠牲となった一部の地域と住民――巨大な焔に煽られつつも吞み込まれ、時に憎悪という薪(たきぎ)としてくべられることで焔そのものを更に大きくする――

そんな光景が幻視できるのではないか。

 ならばその先にあるのは理想郷(ユートピア)などではなく、すべてが激動の時代という怪物への供物に捧げられる反理想郷(ディストピア)であるはずだ。

あらゆる善悪と倫理が融け落ちた、闘争原理に支配された世界。それが燎原(りょうげん)の火の如く帝国を、いや大陸全土を吞み込めば……。

 

 愚にも付かぬ妄想と笑われても構わない。個人への誹謗中傷とも取られよう。だが筆者は政治哲学者としての生命を賭けて本書を上梓する決意を固めた。願わくば一人でも多くの心ある人たちの目に止まらんことを――

 

     七耀歴1202年7月25日

     帝國学術院政治学准教授 ミヒャエル・ギデオン