その他書物・エレボニア:1204年前期
『帝国鉄道史 導力革命後の五十年』
五十年前の導力革命がエレボニア帝国に与えた影響は、他国に劣らず大きいものであったが、その中でも『兵器』と並んで特筆すべきものは『鉄道』であるだろう。
それまでの帝国における交通手段といえば、徒歩・馬・船の三つが全てであり、帝国の版図の広大さを考えると、いささか頼りないものと言わざるを得なかった。
帝都からクロイツェン州都バリアハートまで徒歩だと十日、馬車でも四日かかったことを考えれば、その不便さは容易に想像できるのではないだろうか?
そして――導力革命がもたらした機械仕掛けの駆動機関は、帝国においてまず『鉄道』という形で交通革命をもたらした。
【七耀歴1158年】
エプスタイン博士の高弟の一人であるG・シュミット博士と、武器工房として知られていたラインフォルト工房が協力して軌道(レール)上を走る世界初の『導力駆動車』を開発。
【七耀歴1160年】
【七耀歴1165年】
帝都~ルーレ市を結ぶ初の旅客鉄道路線が開業。
――これらの出来事をきっかけに『導力鉄道』は知れ渡り、帝都を中心に鉄道網が整備されていき、十年後にはオルディス、バリアハート、セントアークなどの州都全てが鉄道路線で結ばれる事となったのである。
その後、帝国で生まれた導力鉄道は他国でも導入され、二十年前には「大陸横断鉄道」という長大な路線も開通し、大陸全土の人・物・情報の流れに多大な貢献を果たしてきた。
リベール王国で発明された『導力飛行船』。もしくはカルバード共和国で発達した『自家用導力車』。
――それらも確かに偉大な発明ではあっただろうが、『導力鉄道』こそが、半世紀に及ぶ導力革命後の時代において最重要の交通機関であるのは疑問の余地すらないだろう。
S・ライネマン
帝国の伝説・伝承
『エレボニアの伝説・伝承 上巻』
旧き伝統を持つエレボニアは、その版図の広さもあって、他国と比較にならないほどの多くの民間伝承が残っている。
この上巻を含めた全三冊では、それらの伝承・伝説のほんの一部を項目別に紹介する。
民俗学的に極めて豊かな土壌を持つエレボニアの、新たな魅力・息吹を感じ取っていただければ幸いである。
【精霊信仰】
七耀教会の信仰から外れた帝国土着の信仰。
万物に宿る霊や、祖先の魂など、捉え方は様々だが、『夏至祭』などの形で帝国では一般的に根付いている。
七耀教会も否定はせず、「空の女神」信仰の一環として組み込んでおり、巧みに習合されている地域も少なくない。
なお、帝国の北東・ノルド高原においては「風」が精霊と同じような存在として信仰されており、その在り方は帝国人の宗教観と本質的には近いものがある。
【魔物】
いわゆる「魔獣」とは異なる、悪しき存在。
人間に害を為すものが多く、七耀教会で伝えられる「悪魔」と本質的に似ているようだが、どちらも実在するかどうかははっきりしていない。
【妖精】
精霊でもなく魔物でもない、異界に棲むという存在。
伝えられる外見は様々で、羽の生えた少女的なものや小人、小動物などもいるが、悪戯好きなのは共通している。
J・アーレント
『エレボニアの伝説・伝承 中巻』
旧き伝統を持つエレボニアは、その版図の広さもあって、他国と比較にならないほどの多くの民間伝承が残っている。
この中巻を含めた全三冊では、それらの伝承・伝説のほんの一部を項目別に紹介する。
民俗学的に極めて豊かな土壌を持つエレボニアの、新たな魅力・息吹を感じ取っていただければ幸いである。
【一角獣】
旧き伝承に出てくる、長い一角を持つ純白の聖獣で、その角にはあらゆる病を遠ざける力がある言われている。
穢れなき処女(おとめ)だけが触れられるとされ、
帝都の聖アストライア女学院のシンボルにもなっている。
【地精】
太古の時代、人に「鋼」の知恵を授けたと伝えられる精霊。
伝説に登場する英雄たちは、必ずと言っていいほど地精が鍛えた「武具」を授かり、試練を乗り越えている。
【魔女】
古の妖術を受け継ぎながら郷に紛れ込んでいるという存在。
大陸各地に伝承があるが、帝国で伝えられる伝承も様々で、悪しき魔女もいれば、善き魔女もいるという。
【吸血鬼】
人の血を啜ると伝えられる強大な魔物。
陽光を浴びると灰になる、鏡に映らないなど、
様々な伝承があるが「魔物たちの王」と言われるほどの強大な力を持っているのは共通している。
J・アーレント
『エレボニアの伝説・伝承 下巻』
旧き伝統を持つエレボニアは、その版図の広さもあって、他国と比較にならないほどの多くの民間伝承が残っている。
この下巻を含めた全三冊では、それらの伝承・伝説のほんの一部を項目別に紹介する。
民俗学的に極めて豊かな土壌を持つエレボニアの、新たな魅力・息吹を感じ取っていただければ幸いである。
【暗黒竜】
暗黒時代初期、帝都ヘイムダルの地底より現れたと伝えられている邪竜。
この竜の瘴気により、帝都はしばらく死の都となり、
南のセントアークに遷都したと言われるが真偽は不明。
その後、皇帝率いる騎士団に退治されたと伝えられる。
【巨いなる騎士】
千年前のエレボニア帝国建国以前から
たびたび現れたという巨人だが、伝えられた特徴は曖昧で各地で異なるため、
単なる伝承上の存在と考えられている。
【不死の王】
帝国各地で伝えられる強大な魔物。
錫杖をもった巨大な青白い髑髏の姿で現れ、
居合わせたものの命を奪い去るという言い伝えがあるが、
その来歴は定かでなく、“死神”と同一視する地方もある。
【紅蓮の魔人】
「千の武器を持つ」と言われる伝説の魔人。
焔をまとった灼熱の身体を持つとされ、
帝都近辺の古文書にわずかに記されている。
J・アーレント
『近代スポーツ~伝統を超えて~』
今でこそスポーツ(運動競技)という言葉は当たり前のように使われていますが、百年前の帝国では決して馴染みのあるものではありませんでした。
文武を尊ぶ帝国において、武術や剣術、馬術や鷹狩りなどは盛んではあったのですが、それらは「競技」とは言い難い、伝統的・習慣的なものだったのです。
しかし近代以降、敵を倒すための武術とは違った「スポーツ」(一定のルールの下で行われる競技)が現れ、帝国においても徐々に広まっていきました。
――以下ではその幾つかを紹介しましょう。
【フェンシング】
・伝統的な剣術を競技スポーツ化したもの。
・フルーレ・エペ・サーブルの三種目があり、
試合では安全面を考慮した専用武具・防具が使用される。
【競馬・ポロ】
・伝統的な馬術の流れをくむレースや障害物競技。
競馬場でのギャンブル要素も近代以降に導入されたもの。
・ポロは騎乗競技で、長柄の槌(マレット)を使って
木のボールを相手側のゴールに打ち込んで勝負を競う。
【水泳競技】
・伝統的な水練の流れをくむ競技・レクリエーション。
「競泳」の他、「水球」や「飛び込み」なども含まれる。
・競泳は自由形・平泳ぎ・背泳・バタフライの四種目がある。
【テニス・ラクロス】
・共に近代以降に現れた運動競技。
帝国でも盛んになりつつあり、プロ選手権も存在する。
・それぞれ専用の用具(ラケット・クロス)を使う球技だが、
試合様式・人数・ルールなどは全く異なる別競技。
――これらのスポーツの多くは男子・女子に分かれており(競馬を除く)、厳正なルールの下で行われるという意味で伝統的な武術とは性格を異にしています。
今後、スポーツ競技人口が更に増えることが予想される中、当協会では各競技の実態やルール改正等を素早く正確に掴み、より一層の普及に貢献したいと考えています。
帝国スポーツ振興協会
『新聞とラジオ~新旧マスメディアの対立』
帝国におけるマスメディア(大衆伝達媒体)と言えば、やはり「帝国時報」が真っ先に挙げられるだろう。
百年以上の歴史を持つ伝統ある新聞で、当時から中産階級以上の層に読まれ、どちらかというとスノッブな内容で貴族階級に迎合してきた伝統紙――
しかし最近、その紙面に揺らぎが見えるようになっている。
結論から先に言わせてもらうと、それは俗に言う昨今の「貴族派と革新派の対立」が最大の原因と言えるだろう。
現宰相ギリアス・オズボーンに代表される革新派の勢いは帝国時報の本社がある帝都においては特に著しく、それらの改革を肯定的に報道せざるを得ない現状がある。
しかしその一方、いまだ地方では絶大な影響力を持つ四大名門を中心とする貴族への配慮も忘れるわけにはいかず、結果として紙面方針に迷いが出てしまっているのである(帝都と地方で発行される紙面内容が微妙に違う場合もあるようだ)
――そんな中、導力ラジオ放送を行う「トリスタ放送」では、そういったしがらみに囚われない報道がニュース番組で流れており、帝都や地方の市民からも高く評価されている。
帝国時報の元デスクとRF社の元技師が立ち上げたラジオ放送局――精力的な営業活動の結果、帝国各地のパブやビアホールに導力ラジオを売りつけ、音楽番組、ニュース報道、スポーツ中継などで普及に漕ぎ付けてきた。
しかし帝国時報にしてみれば、新参者が勝手気ままな事をと、腹立たしく思っているフシがあり、報道のあり方を巡ってトリスタ放送に露骨な圧力を掛けることもあるという。
その一つは「帝国時事放送」の立ち上げであり、先行する「トリスタ放送」「ルーレ導力放送」に加え、帝国時報系列のラジオ放送局が新たに参入する運びとなった。
そしてもう一つは「公共導力派の独占」規制の動きだが、こちらは将来的に帝国政府による報道検閲を招きかねないと危惧されている。(貴族派も検閲自体には賛成している模様)
いずれにせよ、今後は導力ラジオ放送の場において新旧マスメディアの対立・競争が激化するのは明らかだろう。
――叶うなら、それが良い方向に働くのを願うばかりだ。
M・ニールセン
『RFグループの歴史 武器工房から世界企業へ』
カルバード共和国の『ヴェルヌ社』と並び称されることの多い帝国の重工業メーカー『ラインフォルトグループ』。
総資産はIBC(クロスベル国際銀行)に次ぐ世界第二位、
実質的なグループ規模では世界最大とも言われる巨大企業も、
元は火薬式の大砲を製造するルーレの武器工房に過ぎなかった。
しかし導力革命以降、軍隊の近代化が進むにつれて、エレボニアという巨大な軍事国家における導力兵器の需要は爆発的に増え、その供給をラインフォルトは一手に手がけた。
さらに人口増大に伴う社会インフラの整備や、鉄道網の拡充を受けて、ラインフォルトは武器工房の枠を超えた成長を続け、今日のような世界企業となったのである。
――注目すべきは、RFグループの会長職にあるのが、いわゆる帝国における「貴族階級」ではないことだろう。
先代会長、G・ラインフォルト。その娘である現会長、I・ラインフォルト。
帝国における大貴族をも上回る資産を持つ企業のトップがあくまで「平民」でしかないのはれっきとした理由がある。
それは帝国という、新旧勢力が入り乱れた国家において『世界企業のオーナーが一貴族である』ことの危うさを誰もが――他ならぬ貴族勢力すら――判っていたからに他ならない。
たとえばRFの本社があるルーレ市の領主は、いわゆる四大名門の一つである『ログナー侯爵家』だが、仮に侯爵家が領内にあるRFグループの所有を主張した場合、貴族勢力内のパワーバランスが大いに狂うことが予想される。
(※ログナー侯爵家は大貴族中の大貴族ではあるが、四大名門内では公爵位のカイエンとアルバレアの方が格上)
そしてラインフォルト家が財力を使って叙爵を狙った場合、貴族だけでなく革新派からの反発を受けることは必死なため、あえて「名より実を取る」立場に甘んじているのだろう。
伝統と革新、旧勢力と新勢力、地方と中央――
ラインフォルトという企業の在り方は、ある意味、エレボニアという複雑に入り組んだ巨大帝国を映す鏡であり、国家の将来を占う立ち位置を担っているのかもしれない。
E・ローレンツ