徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

賭博師ジャックⅡ 第9回 善と悪

第1レースがスタートするのは1時間後――

それまで互いに作戦を練ることとなり、ジャックは別の部屋に案内された。

 

なおそれぞれ相談役を一人付けるというルールで、

レナードにはニケが、ジャックにはハルが付くことになった。

 

「ねえ、こうして拘束も解かれたことだし……

このまま逃げちゃうってのはナシかな?」

 

「そうだな、仮に一旦この場から逃げられたとして……

それで諦めるような奴だったら苦労はしない。

それに、次ともなればレナードもいよいよ手段を選ばなくなるだろう。そうなれば……」

 

「う、うん、そうよね……

今言ったことはやっぱりナシってことで」

 

そもそも、レース場にはレナードの部下の黒服たちが各所に配置されている。

逃げるということ自体、とても現実的ではなかった。

 

「ねえ、ジャック…… 

レナードさんって昔からあんな悪い人だったの?」

 

ハルの少女らしい物言いにジャックの表情が思わず緩む。

そもそもギャンブラーなんてのは、ジャックも含めて基本的にろくでなしだが、

それでもまあ、言いたいことは分かる。

キングも、そしてジャックも、裏社会の住人とはいえ、

基本的に人の道を外すようなことだけはしなかった。

それはレナードも、ニケも同様だったのだが……

 

「そう、二人とも昔はあんな風じゃなかったのね」

一体、いつから歯車が狂ったのか……

きっかけは7年前のキングの死で間違いない。

あの後ジャックは腐り、そんな彼に失望したニケが傍から離れ、

レナードはレナードで独自の道を見出した。

 

レナードが政治家になったことは当然すぐにジャックの耳に届いた。

昔から派手好きで、何より目立ちたがりな男だったのでその選択自体、

何となく納得はできた。

だがしばらくすると、徐々に黒い噂も……

もちろん表沙汰にはなっていないが、収賄の嫌疑に始まり、

反社会的勢力との付き合いまで囁かれている。

権力というものは、かくも人を変えてしまうのか。

ジャックはしみじみとそんな風に思った。

 

「それはそうと、ニケさんって本当に美人よね。

実は今でも未練があったりするんでしょ?」

 

「な、なに馬鹿なことを……!」

不意の質問に慌てるジャック。

勝負の時に見せるポーカーフェイスとは大違いだ。

そして自分から聞いておいて何だが……面白くないハル。

 

「と、とにかく…… あちらにニケがいるってこともかなり厄介だ。

昔から、男にツキをもたらす《勝利の女神》なんて呼ばれていたが……」

 

「《勝利の女神》、ねえ。

その“男”ってのは当然、《勝利》のジャック様ってことになるわよね」

 

否定はできない……というよりそれが答えだった。

ニケはジャックやレナードにも負けず劣らず優秀なギャンブルの腕前を持つ。

そして彼女とコンビを組んだジャックは《勝利》の文字通り、

ただの一度も負けたことがなかった。

 

「へえ、コンビでギャンブルか……」

何かを言いたそうなハルだったが、それ以上この話題には触れることはなかった。

 

「それでジャック、向こうが用意してくれたレースのデータを見ておかなくていいの?」

 

「まあ、日頃からレースはチェックはしているし、大体は分かるからな。

それよりも大事なのはレース場の空気感だ。できれば外を見ておきたかったが――

前半戦はこのまま挑むしかなさそうだな」

 

時計を見ると、第1レースの時間が迫っていた。

 

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