賭博師ジャックⅡ 第1回 ジャックとハル
――カルバード共和国。
この国には東方からやって来た移民たちが、故郷を想い、故郷に似せて築き上げた街がある。
俗に「東方人街」と呼ばれるこの街はいつも人々の活気と熱気で満ち溢れている。
活気があるのは街の“裏”側も同様だ。
だが半年前、その情勢が大きく揺れ動いた。
およそ10年に渡って繰り広げられてきた古参と新参の勢力争い。
ある思惑により、両者の未来を賭けた世紀のギャンブル対決が行われ、
結果、新参が失脚する事態へとつながった。
そんなギャンブル対決で相対した二人――
それがジャックとハルである。
その無類の強さから、《勝利》という異名で呼ばれるようになったギャンブラー・ジャック。
ジャックの師匠で、かつて最強と謳われた今は亡きギャンブラー・キングの娘、ハル。
真実と誤解、そして陰謀の狭間でうごめいた二人の因縁と運命の物語は劇的な展開を見せ――最終的にハルは、ジャックによって闇の世界から救われるのだった。
そして今ハルは――東方人街の北のはずれにある場末のボロ酒場でウェイトレスとして働いている。
それはこの酒場を根城にするジャックにとって不本意なことだったが、
ハルの意志の強さに諦めざるを得ないのだった。
――そんなこんなで二人が共に多くの時間を過ごすようになってから数ヶ月。
夏も盛りを迎えたある日、ハルはジャックをとある場所へと連れ出した。
うだるような炎天下、東方人街に隣接した新市街にある目的地へと向かう二人。
普段、昼間から酒場に篭っているジャックにとって外出、
それも徒歩でというのは拷問に等しい。
「導力車でもあればなぁ……」
思わずジャックが呟(つぶや)いた。
「ジャック、車を運転できるの?」
意外な顔で返すハル。
「ちょいと昔、かじったことがあってな。っていうか、あれだ。俺ほどの男ともなると、できないことの方が少な――」
「はいはい……分かったから」
ジャックの軽口をハルが適当に受け流しつつ、ようやく目的地に到着する二人。
出迎えたのは、入り口の頭に巨大な看板を掲げた最新鋭の施設。
共和国でもまだ数件しか存在しない《映画館》だ。