徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

賭博師ジャックⅡ 第8回 白と黒

レナードの指定した場所――

そこは日々白熱したレース観戦が楽しめる共和国でも最大規模の導力車レース場だった。

 

ここでは一応賭博も認められており、それを目的に訪れる客も少なくない。

 

しかも今日は年に数回しかない実力派のレースチームが集うビッグレースの日、

その人出は凄まじい。それに合わせて、賭けの方も配当金の割合が高くなる。

 

「懐かしいな……」

ギャンブラーとしてのカンを磨くため。

そんな理由で、レナードとともにキングによくここへ連れてこられたことを思い出す。

もう10年以上も前のことだ。

 

三人の中で一番的中率が高かったのはレナードだ。

彼は過去のレースのデータを徹底的に集めて分析し、

最も確率が高いであろう結果に多く賭けた。

だがそれゆえに配当率は低くなる傾向になる。

「そんなの面白いか」とよくキングになじられていた。

 

キングは自らの言葉通り、その鋭い観察眼に基づく直感であらゆるレースを次々に当てた。

トータルで稼いだミラの額は文句なしでダントツだった。

 

ジャックはいつも大勝負にこだわった。

安定感こそないが、時にキング以上に冴えわたる直感で、

ダブルオーチケット(配当率が100倍以上の勝利チケット)を何度も当てた。

 

レース場の入り口でそんなことを回想し、

感慨にふけっているジャックの前にレナードの部下らしき黒服の男たちが現れる。

 

「ジャック様、どうぞこちらへ」

 

 

 

レースを至近距離から観戦できるガラス張りのVIPルーム――

そこにレナードとニケ、そして軽く拘束されたハルがいた。

 

「ハル――!」

思わず前のめりになって、声を出すジャック。

すると銃を装備した黒服に牽制される。

 

「フフ、まあそう焦るな。

 よく来たな、ジャック。今日は最高の舞台を整えてやったぞ」

 

「レナード……!」

不敵に構えるレナードに、ジャックは怒りをあらわにする。

 

「フッ、とうとうこの私を呼び捨てか。……だが、それでいい」

レナードは満足げだ。

 

ジャックがニケにも視線を送る。

「ニケ…… お前まで加担していたとはな」

 

「ええ、あなたには悪いけど」

そう言い、ニケはレナードにそっと寄り添う。

 

「もう気付いているだろうが……

 私の目的はハル君が持つキングの“切り札(ジョーカー)”だ」

レナードがハルの首飾りの宝石を掴んで弄ぶ。

 

レナードの言う通り、ジャックは既にその目的に気付いていた。

 

7年前のキングとの大勝負――

ジャックの勝利で決着がついた時、

ハルに伝えて欲しいと頼まれたキングの遺言ともいうべき“キーワード”。

それはキングが隠し持つ“切り札”に施されたロックであり、ジャックはそれを託されたのだ。

……もっとも、当時のジャックにその意味は分からなかったが。

 

「キングの顔は広い――

彼はあらゆる“裏”の人脈に通じており、それは時に“表”ともリンクする。

なあジャック。政治の世界は表と裏――

“白”と“黒”で言うとどちらだ?」

 

「さあな」と受け流すジャックにレナードが続ける。

「答えは――”真っ黒”だ」

 

「キングは実に計算高い男だ。ハル君の首飾りに仕込まれた記憶結晶(メモリークオーツ)――

これに刻まれた、キングのみが知る“闇の交遊録”が持つ力は尋常ではない。

俺はこれを手に入れ、政治家としてさらなる高みへといく。

そしてそのためにはジャック。お前だけが知るキーワードが必要なのだ」

 

「そこまで知っているとは…… ニケ、全てお前の入れ知恵だな」

 

「ええ、そうよ。 だって彼にはもっと羽ばたいて欲しいから」

 

「……何が羽ばたくだ」

ジャックが嘆息する。

 

「人の弱みを握って……それを種にゆすり、手に入れる地位に、一体何の価値がある!

キングが情報を遺したのはあくまで大切な人を守るため、ただそれだけだ」

 

ジャックの言葉がハルの胸に突き刺さる。

だがレナードとニケの二人には響かない。

 

「フフ、あなたのそういうところは嫌いじゃなかったけど……

それじゃあ力を持たない、ただの子供と同じなの」

 

「まあ、この男には何を言っても分かるまいよ。

 だが――そんなお前を完膚なきまでに叩きのめさなくては、俺も寝覚めが悪くてな。

お前が知るキーワードと、ハル君の解放……この2つを賭けて勝負してもらうぞ」

 

――慎重で頭の切れるレナードのことだ。

その態度が勝負に対する絶対の自信をうかがわせる。

だが、ジャックも退く気はさらさらなかった。

 

そうしてジャックとレナードは――

本日満を持して行われるビッグレースにてギャンブル対決を行うことになった。

 

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