徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

賭博師ジャックⅡ 第5回 日常

導力車レースの結果はレナードの勝利で終わった。

「すごかったわ、ジャック! けど残念だったわね」

駆けつけるハルに苦笑で返すジャック。

 

続いてやって来るレナードとニケ。

ニケは目を瞑り、レナードが怒りの視線をジャックに向ける。

「お前――また手を抜いたな」

 

「そんなつもりは……」

答えに窮するジャック。

決してわざとではなかったが、自覚はあった。

怖くて聞いてはいないが、今はレナードの恋人であろうニケ。

彼女の前で先輩であるレナードに恥をかかせる訳にはいかない。

ゴール前でニケの姿を捉えた時、ジャックは確かに一瞬、そんな風に考えたのだった。

 

そしてこれは昔からだが、ジャックはレナードに目を付けられることを嫌った。

 

キングが特別目をかける、才能の抜きん出た弟弟子――

レナードがジャックを見る時、その目には確かに羨望や恨みの光が宿っていた。

そのためジャックはいつしかレナードに対する時、自分を抑えるようになった。

 

だが――レナードにはそれが我慢ならない。

「(いい気になるなよ、ジャック……!)」

そんな言葉を飲み込み、ギリッと奥歯を噛み締めた。

 

 

 

――レースから3日が経った

 

ジャックとハルは、今日もいつもの酒場にいる。

ちょうど昼時、ハルはホールの仕事に一生懸命だ。

一方ジャックは……基本的にこの時間、奥の私室で寝ている。

 

導力車の運転もそうだが、こう見えて多方面に才能があり、

裏社会を生き抜いて来た者として、ある程度の腕っぷしも備えているジャック。

昔からお世話になっているマスターの好意もあり、

“酒場のお抱えギャンブラー”なんて立場を気取っている。

 

どこまで慕われているかは分からないが、

ジャックには酒場に集うゴロツキどもをまとめ上げるカリスマも備わっていた。

 

だが、酒場でハルが働くようになってから様子が変わった。

なんだかんだで誰もが一目置いていたジャック。

もちろん根っこにあるものは変わらないが、そんなジャックを、ハルは巧みにコントロールし、ゴロツキどもも、そんなハルを支持する。

 

つまり、今この酒場を支配しているのは実質ハルなのだ。

 

「ジャック、マスターがストックの材料が無くなったって。買って来て」

 

「ふあ? なんで俺がそんなこと……」

まだ半分夢の中のジャックが目をこすりながら言う。

 

「いい、ジャック? 働かざるもの食うべからず――

 これが世間の常識よ、裏も表も関係ない。“なんで”じゃなくてそれが当然なの。分かったら、すぐに行ってきて」

 

「くっ……今に見てやがれ……」

そう言いつつも、15以上歳の離れた娘に従ってしまうジャック。

だが口で言うほど悪い気はしていない。

 

とはいえ、それをゴロツキどもに指摘されるのは勘弁ならない。

二人のやり取りを見てニヤついた輩に「おいコラ」と突っかかる。

 

「ジャック!」

 

「はいはい、分かったよ」

ジャックは諦めて買い出しへと出かけた。

店の扉は相変わらず建付(たてつけ)が悪く、いつものように悲鳴のような音を立てる。

 

――少しして、再び扉が悲鳴を上げる。

人の出入りが分かるという点では便利なのだろうか……

ジャックと入れ替わるようにして新しい客がやって来た。

 

それはこの酒場に似つかわしくない美貌の持ち主――女優のニケだった。

 

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