賭博師ジャックⅡ 第6回 女同士
「いらっしゃいませ……ってニケさん!?」
「フフ、本当にこのボロ酒場で働いているのね。お邪魔するわよ」
ニケが慣れたようにカウンターの席へと足を運ぶ。
ゴロツキどもはニケが放つ色気に生唾を飲みつつ、彼女の一挙一動を黙って見守った。
「久しぶりね、マスター。
ところでここの人たち、少し落ち着いたかしら?」
「はは、そうかい? だとしたらハルちゃんのおかげだね」
穏やかな笑顔で答えるマスター。
「えっと、マスターも知り合いなんだ。
これはもしかして……なんだけど……ニケさんって、ジャックの……」
「ええ、昔の恋人よ」
「…………!」
ニケの直球に言葉を詰まらせるハル。
そうだろうなとは思ってはいたが、すぐに認めるとは思わなかったので不意をつかれた形だった。
「ふふ、驚くハルちゃんも可愛いわ♡ ねえ、その気があるなら私と同じ女優を目指してみない? ハルちゃんならきっとスターになれるわよ」
「あはは……
でもわたし、そんな柄じゃないし」
ハルはどうにもニケの押しに弱かった。
なかなか自分のペースに持って行くことができない。
ジャックとのことで聞きたいことがいくつもあったのだが……
そして、ニケはそんなハルの気持ちをも看破する。
「ふふ、いいわよ。ハルちゃんの気になってること、何でも教えてあげる。
でもタダではダメ、ギャンブルしましょ。
―ただし、私が勝ったら、逆にこちらの質問に答えてもらうわよ」
ハルにはニケの言葉の真意を掴めなかったが、
ギャンブル勝負と聞いて退けない性(さが)は父親譲りだ。ハルは快く引き受けた。
――種目はハルの得意なものでいいということでカードゲーム、
それもブラックジャックに決まった。
弱冠15歳にして天才ギャンブラーの資質を見事に開花させたハル。
春を天才たらしめるのは、これまでに積み重ねた血のにじむような努力もそうだが……
その真髄はジャックにはなく、キングにすらなかった類まれなる“記憶力”にあり、
それは彼女ならではの武器だった。
場に出たカードから残りのカードを予測する“カードカウンティング“という技術。
これを活かせるブラックジャックはハルにとって非常に相性のいいゲームだ。
そして開始する勝負――
ハルはニケのカードの持ち方を見て、“慣れていない”と思った。
だがいくつかの勝負を重ねた結果――
最終的なチップの数で負けたのはハル。
「まさか“すり替え”ができたなんて……」
「ふふ、証拠がなければイカサマとは言わないわよ?」
ハルは決して油断はしていなかった。
だが、相手の力量を見誤った。
年の功というのもあるだろう。
ニケはわざと“できない”フリをし、ハルの警戒を解くことに成功したのだった。
「フフ……だって私、女優だもの」
そう言って、ニケは不敵に笑った。