徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

第13回 筋

「貴様はこの娘に毒を盛り、

 キングを脅していたんだな!」

ウォンの口から飛び出した一言に

ハルは打たれたように身を硬くした。

観客の間からも、驚きの声がもれる。

ウォンの追求にエンリケは必死の弁解を続けた。

どうにか動揺を抑えようとしたが、

彼にはそれを隠し切るだけの度量もなかった。

 

同業者たちの疑いの眼を前に

言い訳を続ける彼の姿はどこか滑稽に見えた。

誰もがジャックの言葉を信じ始めていた。

もちろん、7年前にエンリケ

ハルに毒を盛ったという証拠はどこにもない。

だが、彼の主張には「筋」がない。

対してジャックの言い分は「筋」が通っていた。

裏の世界には、常に裏切りが付きまとう。

皮肉ではあるが、だからこそこの世界では

「筋」――物事の倫理的な論理性が重視される。

この「ルール」に従えば、証拠など意味はない。

エンリケが何らかの制裁を受けることは確実だった。

ようやくそれを悟ったエンリケ

観念したのかぱったりと弁明を止めてしまった。

ハルはずっと立ち尽くしていた。

色んな想いが溢れ出てきて、動けなかった。

「父は負けてはいなかった。」

真実は彼女の心をなぐさめてくれたが、

同時に深い喪失感をも抱かせるものだった。

父は自分のために死を選んだ。

それはあまりに大きく、

あまりにも悲しい父の姿だった。

彼女を突き動かしてきた復讐の炎は

いまや完全にその勢いを失った。

それはくすぶり、細い煙をあげ、

……そして白い灰へと変わってしまった。

「……そんな、そんなことって……

 パパは私のために…………………!」

沸き上がる想いが言葉となってこぼれ、

彼女の中で何かが弾けた。

床へ崩れ落ちたハルは、

その場に屈みこみ大声で泣きじゃくった。

そんなハルを横目に、ウォンはジャックに

ねぎらいの言葉をかけ、肩を叩いた。

「今夜は最高の夜になった。

 出来る限りの望みを叶えてやろう。」

彼はジャックにささやいた。

 

「ならばハルをもらおう。」

ジャックは迷いなく答えた。

ウォンは答えに窮した。

ハルがいかに哀れであろうとも、

彼女はエンリケの持ち駒だ。

7年前のことで制裁があったとしても

彼女を自由にするのは難しく思えたのだ。

「ジャックの望み通りにしろ。

 一体何の問題があるんじゃ。」

背後から投げかけられた声に

広間にいた全員が凍りついた。

すべての視線が一点に集中する。

視線が結ぶ先にはあの髭の老人、

シャムロック大老がいた。

「娘はくれてやればよかろう。

 …………のう、エンリケ。」

エンリケは力なくうなずいた。

ようやく船内に、勝利を祝う大歓声が巻き起こった

 

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