徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

陽溜りのアニエス 第7回 エドウィンの正義

 

 

モンテニューの話はこうだった。遥か昔、聖典にある創世の時代、人類には魔法を自由に扱う力が備わっていたのだという。だが長い年月の間でその力は失われ、いまや人々は導力器の助けなしに魔法を使うことは出来ない。それが当然となってしまった。

 その失われた力を密かに受け継ぐ一族……それが『魔法使い』だ。彼らは今の世にも確かに存在し、人の社会に溶け込んで生活しているのだという。

 「信じないかね? まあ無理もないが…… 実は私は、この街にも1人いるんじゃないかと睨んでいるんだ。フフ……案外君の近くにいるかもしれないぞ? そうだな、もし君の考える通りウェーバーハルト氏のご養子が絶対に判らない方法で殺されたのだとすれば……それは魔法使いの仕業かもしれないな」

モンテニューは最後に、この話は絶対に口外しないように念を押した。たとえ君の肉親にでもだ。でないと今度は私や君が命を落とすだろう。

 

 エドウィンは幼い時分から、やんちゃで単純な子供だった。確か14か15になった頃だと思う――どこかの地方のニュースが報じられる中で、とある記者が大物政治家の悪事を暴いたのを見たのだった。

 人々を苦しめ私腹を肥やしていた政治家は、それはもう完膚なきまで、ものの見事に倒されてしまった。そしてその記者は事も無げにこういった。世の中の理不尽なこと、納得のいかないことを追求して、納得の行くようにするのが記者の仕事なのです、と。

 それ以来、身の回りの偽善やうやむやを明らかにするのがエドの正義となった。……魔法使いだって?そんな得体の知れない奴が本当にいるなら、俺がこの手で明らかにしてやろうじゃないか――!

 「……エド? いないの?」相変わらず騒がしい編集部にちょこんと顔を出し、アニエスは小声で呼んでみた。エドは最近とても忙しいらしく、店にも全然来ないのだ。原稿のチェックも頼んでこないし…… 一体何をしてるんだろう?

 「あ、ああ……なんだ、来てたのかよ」自分の席で何か書き物をしていたエドは、素早く机の上の仮原稿――いつも取材レポートの一環として書かされているやつだ――をしまって振り返った。ちらりと見えた文面は、どうやら例のウェーバーハルト氏の遺産の顛末らしい。ようやく分配が決まって会見では云々、財産管理人のモンテニュー氏のコメントがどうの、リボンをつけた女の子の話、もちっと理事長の経歴をきれいにまとめとけbyブランドン。

 スペルミスを2箇所見つけたけど、アニエスは黙っている事にした。なんだか少しよそよそしい態度が気になったし、今度店に来たときに冷やかすネタにでもしようと思ったのだ。

「出前のついでにお昼を持ってきたわよ。……まだなんでしょ?」

「ああ、こりゃ助かる。サンキューアニエス、ナイスタイミングだ!」

取材に行ってきやーっすと言い残して、パンの包みをひったくったエドウィンはもうドアを潜っていた。その勢い……というよりどこかいつもと違う言動に、エドが一瞬で視界から消えたみたいな錯覚がして、アニエスは思わず軽い眩暈を感じた。――なんだろう、この感じ。ブランドンやカーリーに困った視線を送ってみるけれど、事情を知っているはずの2人はただ肩をすくめてアニエスと同じ顔を作ってみせた。不安、困惑、意味が判らないといった顔を。

 

 ……どういうこと?

エドは一体何をしているの――?

 

←前話                                 →次話