トマトニオ伝記 第3回 【生き方にふさわしい最期】
「トマトの優等生様が、こんな所で何してるんだ?
随分と不細工になったじゃねぇか」
挨拶代わりに憎まれ口を叩くのは、トマトニオと口喧嘩が絶えなかったカラスでした。
「笑いたければ笑えばいいさ。
だけど、僕はまだ夢を諦めてないぞ」
トマトニオがそう啖呵を切ると、痩せたカラスは意地悪そうに笑います。
「まぁそう来るとおもったぜ。往生際の悪いトマトだ」
カラスはそう言い放ち、トマトニオの頭についた蔓をクチバシに挟んで空高く舞い上がりました。
そして赤く染まる夕暮れの空を、どこか遠くを目指して駆け抜けていきます。トマトを咥えてひたすら飛び続けるカラスに対して、他のカラスや森の動物達は不思議そうに尋ねました。
「どうしてそのトマトを食べないの?」
カラスは決まってこう答えます。
「美食家の俺が食べるよりも、この不細工なトマトにお似合いの奴がいるんだよ」
トマトニオはどこへ連れて行かれるのか不安でしたが、森から連れ出してくれた事に感謝を伝えました。カラスは鼻を鳴らして素っ気なく応じます。その後疲れていたトマトニオは眠気に襲われて、ぼさぼさのカラスに身を委ねました。
◇
そうやってカラスが夜通し飛び続けてると、爽やかな朝を迎えました。トマトニオは朝靄の冷気で目を覚まします。間もなく辿り着いたのは、名だたる料理人の中でも最高と謳われる伝説の料理長のお店でした。
カラスはその料理店の調理台の上にトマトニオを置くと窓の縁に立ち、
「最高のトマトのお前に、お似合いの場所だぜ。
俺も馬鹿だよな……お前の生き様に惚れちまったなんてよ」
そう言い残して、燃え尽きたように窓枠の外へと落ちてしまいます。
「カラス……!」料理店の外からは、軽い物音が響きました。
カラスはトマトニオと出会って以来、畑から盗むのを辞め、細々と暮らしていた為に体力が無くなっていたのです。
「ありがとうカラス、君は最高の親友だよ」
トマトニオがカラスとの思い出を噛みしめていると、厨房に伝説の料理長と料理人達が入ってきました。
「何なんだこれは?」
厨房の調理台の上には、醜く変形した体に土や葉をこびりつかせたトマトが置かれています。これを見た料理人は
「こんな汚い物早く捨てましょう」
と言ってトマトニオを摘み上げますが、伝説の料理長はそれを制止しました。
「これは只のトマトじゃない。見た目じゃなくて本質を見るんだ」
そう言って伝説の料理長はトマトニオを優しく掴み、汚れをそっと洗い落としまします。
「不格好だが、これは確実に最高のトマトだ。これを使えば最高の料理ができるぞ」
伝説の料理長がそう言うと厨房はどよめき、早速調理に取り掛かりました。
そしてトマトニオは伝説の料理長の元で、最高の料理へと生まれ変わります。その料理を食べたトマト嫌いの子供はトマトが大好きになり、このトマトの味を生涯忘れませんでした。