トマトニオ伝記
閃の軌跡Ⅲより、トマトニオ伝記です。ゼムリア世界に普通のトマト存在するんだ~、と思わせてくれる作品です。でもキャラクターが作る時は絶対にがトマト(笑)
ZCFのレイさんも罪な男だ……。
第1回 【トマト達の門出】
ある所に立派なトマトを目指す努力家のトマト、トマトニオがいました。トマトニオはトマトとして生まれた自分に誇りを持っており、将来美味しく食べてもらう事を夢見て日々努力を重ねています。農家のおじいさんは、トマトニオに対して
「お前は自慢のトマトだよ。
早く美味しいトマトになって、みんなを喜ばせておくれ」
と言い聞かせていました。トマトニオはその期待に応え、丸々と光る深紅のトマトに育ちます。
ところが、そんなトマトニオを馬鹿にするトマトがいました。
それは怠け者のトマトです。
「必死に努力するのは格好悪いよ。
何事にも本気を出さないくらいが格好良いのさ」
トマトニオはそんな声に耳を貸しません。
さらに、トマトを盗みに来た際に出会ってからトマトニオと口喧嘩が絶えない、痩せたカラスがいました。
「いつか美味しいトマト料理にしてもらって、皆を喜ばせるんだ」と熱く夢を語るトマトニオに対して、
「奇跡的に出荷されたとしても、せいぜい売れ残るか、生ごみ行きだろうな」
とカラスは意地悪そうに言い、トマトニオの夢や意気込みを聞いては馬鹿にします。それでもトマトニオの意思は全く折れませんでした。
トマトニオは、誰に何を言われても意思を曲げない強い信念を持っていたのです。
◇
そして、ついに収穫の日を迎えました。この日を待ち望んでいたトマトニオは心躍らせます。
ところが、晴れやかな朝空に突如暗雲が立ち込めたかと思うと、暴風が吹き荒れました。台風が襲ってきたのです。トマト達は成す術もなく暴風に煽られ、吹き飛んでしまいました。
そんな中、トマトニオは必死に耐え続けます。
「おいしく食べてもらう為にも諦めないぞ!」
蔓に全神経を集中させて、なんとか踏ん張り、荒れ狂った一晩を耐え忍ぶトマトニオ。明け方になると、台風は徐々に静まっていきます。
せっかくの収穫の日が台無しになったことを悔やみながら、トマトニオは一難去ったことに安堵しました。すると、自分の体に違和感を感じます。恐る恐る見てみると――なんと、必死に暴風を耐えたトマトニオの体は、丸々とした立派な形から姿を変えて、みっともない形に変形してしまったのです。
第2回 【努力家のトマトは地に堕ちる】
変形してしまった自分の体に衝撃を受けるトマトニオに対し声がかかります。それは小振りだった怠け者のトマトでした。
「そんな変な形じゃあ誰も食べたがらないよ」
そう言って怠け者のトマトはせせら笑います。それでもトマトニオは、赤々とした発色の良さと中身の美味しさには自信がありました。
そんな時、過ぎ去ろうとしている台風の最後の暴風が、激しく土埃を巻き上げながら畑を襲います。トマトニオの努力も虚しく、限界を超えた蔓は切れてしまいました。暴風に晒されるまま、1回転、2回転、と森へ転がっていくトマトニオ。
その度にトマトニオの赤々とした体は傷つき、土に汚れていくのでした。
転がり続けて、どれ程経ったのでしょうか。。ようやく動きが止まったところでトマトニオが辺りを見渡すと、そこは広大な森の中でした。
トマトニオは愕然とする中、ふと落ち葉を踏む音を聞きつけてそちらを見やります。
そこには、畑荒らしとして有名な恰幅の良いイノシシが居ました。
「あれ? こんなところに美味しそうなトマトが落ちているぞ」
そう言ってイノシシは口を近づけます。トマトニオはイノシシに言われるのは不本意でしたが、美味しそうと言われてつい喜びました。
ところが、イノシシが咥えたのは、先ほどの暴風で一緒に飛ばされて来た怠け者のトマト。見た目は良い怠け者のトマトは得意げな顔をしてイノシシの口の中に消えます。
するとイノシシは「まずっ!」と言って怠け者のトマトを吐き出しました。
「こんなに中身が無くて不味いトマトは初めてだ」
イノシシは忌々しげに、怠け者のトマトの残骸に吐き捨てました。そしてトマトニオを一瞥して
「こっちのトマトなんて、さらに形も見た目も悪いし、もっと不味そう」
そう言い残して立ち去りました。これに対してトマトニオは憤慨します。
「見た目で決めつけないでくれよ。美味しさにかけちゃ自信があるんだ」
そんなトマトニオの涙を湛えた必死な声は、台風が去った後の薄暗い森に虚しく響きました。
◇
トマトニオは森に1個取り残されたまま夕方を迎え、だんだんと鮮度を失っていきました。
「まだ諦めないぞ、僕はどこにいたって誇り高いトマト。誰よりも美味しくなって、食べた人に喜んで貰うんだ」
トマトニオは自分を奮い立たせます。そして満身創痍の中、最後の力を振り絞って皮をピンと張りました。
すると、泥の隙間から覗く艶やかなトマトニオの皮は輝きを取り戻し、その皮に真っ赤な夕日を映します。
暫くすると、その夕焼け空に細く黒い影が差し込みました。それはトマトニオの前に降り立ちます。
第3回 【生き方にふさわしい最期】
「トマトの優等生様が、こんな所で何してるんだ?
随分と不細工になったじゃねぇか」
挨拶代わりに憎まれ口を叩くのは、トマトニオと口喧嘩が絶えなかったカラスでした。
「笑いたければ笑えばいいさ。
だけど、僕はまだ夢を諦めてないぞ」
トマトニオがそう啖呵を切ると、痩せたカラスは意地悪そうに笑います。
「まぁそう来るとおもったぜ。往生際の悪いトマトだ」
カラスはそう言い放ち、トマトニオの頭についた蔓をクチバシに挟んで空高く舞い上がりました。
そして赤く染まる夕暮れの空を、どこか遠くを目指して駆け抜けていきます。トマトを咥えてひたすら飛び続けるカラスに対して、他のカラスや森の動物達は不思議そうに尋ねました。
「どうしてそのトマトを食べないの?」
カラスは決まってこう答えます。
「美食家の俺が食べるよりも、この不細工なトマトにお似合いの奴がいるんだよ」
トマトニオはどこへ連れて行かれるのか不安でしたが、森から連れ出してくれた事に感謝を伝えました。カラスは鼻を鳴らして素っ気なく応じます。その後疲れていたトマトニオは眠気に襲われて、ぼさぼさのカラスに身を委ねました。
◇
そうやってカラスが夜通し飛び続けてると、爽やかな朝を迎えました。トマトニオは朝靄の冷気で目を覚まします。間もなく辿り着いたのは、名だたる料理人の中でも最高と謳われる伝説の料理長のお店でした。
カラスはその料理店の調理台の上にトマトニオを置くと窓の縁に立ち、
「最高のトマトのお前に、お似合いの場所だぜ。
俺も馬鹿だよな……お前の生き様に惚れちまったなんてよ」
そう言い残して、燃え尽きたように窓枠の外へと落ちてしまいます。
「カラス……!」料理店の外からは、軽い物音が響きました。
カラスはトマトニオと出会って以来、畑から盗むのを辞め、細々と暮らしていた為に体力が無くなっていたのです。
「ありがとうカラス、君は最高の親友だよ」
トマトニオがカラスとの思い出を噛みしめていると、厨房に伝説の料理長と料理人達が入ってきました。
「何なんだこれは?」
厨房の調理台の上には、醜く変形した体に土や葉をこびりつかせたトマトが置かれています。これを見た料理人は
「こんな汚い物早く捨てましょう」
と言ってトマトニオを摘み上げますが、伝説の料理長はそれを制止しました。
「これは只のトマトじゃない。見た目じゃなくて本質を見るんだ」
そう言って伝説の料理長はトマトニオを優しく掴み、汚れをそっと洗い落としまします。
「不格好だが、これは確実に最高のトマトだ。これを使えば最高の料理ができるぞ」
伝説の料理長がそう言うと厨房はどよめき、早速調理に取り掛かりました。
そしてトマトニオは伝説の料理長の元で、最高の料理へと生まれ変わります。その料理を食べたトマト嫌いの子供はトマトが大好きになり、このトマトの味を生涯忘れませんでした。