トマトニオ伝記 第1回 第1回 【トマト達の門出】
ある所に立派なトマトを目指す努力家のトマト、トマトニオがいました。トマトニオはトマトとして生まれた自分に誇りを持っており、将来美味しく食べてもらう事を夢見て日々努力を重ねています。農家のおじいさんは、トマトニオに対して
「お前は自慢のトマトだよ。
早く美味しいトマトになって、みんなを喜ばせておくれ」
と言い聞かせていました。トマトニオはその期待に応え、丸々と光る深紅のトマトに育ちます。
ところが、そんなトマトニオを馬鹿にするトマトがいました。
それは怠け者のトマトです。
「必死に努力するのは格好悪いよ。
何事にも本気を出さないくらいが格好良いのさ」
トマトニオはそんな声に耳を貸しません。
さらに、トマトを盗みに来た際に出会ってからトマトニオと口喧嘩が絶えない、痩せたカラスがいました。
「いつか美味しいトマト料理にしてもらって、皆を喜ばせるんだ」と熱く夢を語るトマトニオに対して、
「奇跡的に出荷されたとしても、せいぜい売れ残るか、生ごみ行きだろうな」
とカラスは意地悪そうに言い、トマトニオの夢や意気込みを聞いては馬鹿にします。それでもトマトニオの意思は全く折れませんでした。
トマトニオは、誰に何を言われても意思を曲げない強い信念を持っていたのです。
◇
そして、ついに収穫の日を迎えました。この日を待ち望んでいたトマトニオは心躍らせます。
ところが、晴れやかな朝空に突如暗雲が立ち込めたかと思うと、暴風が吹き荒れました。台風が襲ってきたのです。トマト達は成す術もなく暴風に煽られ、吹き飛んでしまいました。
そんな中、トマトニオは必死に耐え続けます。
「おいしく食べてもらう為にも諦めないぞ!」
蔓に全神経を集中させて、なんとか踏ん張り、荒れ狂った一晩を耐え忍ぶトマトニオ。明け方になると、台風は徐々に静まっていきます。
せっかくの収穫の日が台無しになったことを悔やみながら、トマトニオは一難去ったことに安堵しました。すると、自分の体に違和感を感じます。恐る恐る見てみると――なんと、必死に暴風を耐えたトマトニオの体は、丸々とした立派な形から姿を変えて、みっともない形に変形してしまったのです。
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