徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

不義の英雄

閃の軌跡Ⅲより。何とも救いようのない話ですが……。この後、シノはどうなったのでしょう?兄と同じように、「悪者」を殺し、「英雄」たらんとする彼は、街の住人に兄の死体を見せ、誇らしげに語ったのでしょうか。そのまま兄と同じ道を辿ったのか、それとも誰か、引き止め、戻してくれる人が現れたのか……。続編は空の女神のみぞ知る、ですね。

 

 

不義の英雄

 

第1回 【英雄の誕生】

 

 ある街の子供に、男の子マークと、その弟シノがいました。マークは目立ちたがりな性格で、街を守る剣士を目指しています。暇を見つけては熱心に剣の修行に励んでいました。

 マークの弟シノは気弱な性格で、兄の事をとても尊敬しています。いつも兄の後ろを付いて回り、真似をしているような子供でした。

 

                   ◇

 

 やがてマークが剣術を身につけ、剣の重たさを感じない程に力がついて来た頃、街に魔獣が現れました。住民が兵士を呼ぶために叫び、逃げ惑う中、マークは率先して魔獣の元へと向かいます。

 

「家族の住む街は俺が守ってみせるんだ!」

まだ拙いマークの剣では1回りも大きい魔獣に対して満足に張り合う事が出来ませんでした。それでも諦めないマークは必死に食らいつきます。

 暫くして兵士たちが魔獣の元に駆けつけると、傷つき逃げる魔獣の姿、そして満身創痍ながらも膝を付かないマークの姿がありました。このマークの活躍によって街の住人は誰一人として怪我を負う事も無く、平和が守られたのです。

「マークのお陰でこの子は助かったわ。

 あなたは私たちの英雄よ。

 この子が大きくなったら必ず教えるからね」

魔獣が出現した場所の近くに住んでいた奥さんは、赤ん坊をあやしながらマークに感謝を伝えました。マークは自分の力で守った命がとても誇らしく、その赤ん坊の朗らかな笑顔を胸に刻みます。こうしてマークの勇敢な行動が評価され、街の人々からは英雄と称えられました。マークは自分の努力が大きく実ったことを喜び、さらに剣の腕を磨くようになります。

 

                   ◇

 

 それからというもの、マークとシノが街中を一緒に歩いているとマークは道行く人々から毎日のようにもてはやされるようになりました。人気の施設では優遇され、街のお歴々からはプレゼントが届くようになります。

「英雄になるにはどうしたらいいの?」

シノが尋ねると、マークは即答しました。

「強くなって、悪者を倒すんだ。

シノも英雄になりたかったら悪者を倒して街の人達に認めて貰うんだな」

胸を張って言い切る英雄の姿は、シノの目にとても格好よく映ります。

「うん、僕も頑張って強くなるよ」

 マークが英雄になると同時に、シノにも大きな変化が生れていました。昔から兄のやる事が正しく、自分がやる事は失敗ばかり。そう感じていたシノは自分の可能性を諦め、夢や希望を持っていませんでした。

 しかしシノは今、生まれて初めて将来の夢を持ったのです。それは“英雄になる事”。ただ漠然と兄の背中を追いかけるのではなく、自分も兄と同じ英雄になりたいという夢でした。

 それからというもの、シノは夢の実現に向かって愚直と言えるほど真っ直ぐに兄から“英雄”について学ぶようになります。

 

                  ◇

 

 その後も魔獣が現れる度にマークは率先して魔獣の元に駆けつけては、退治していました。そんな日々を繰り返す内にマークは剣の腕を上げ、並みの魔獣なら一刀両断出来る程に成長します。剣に付いた血を手際よく拭き取り、鞘に納める姿は誰が見ても様になっており、シノもそんな兄の姿に憧れて毎日剣の修行に励んでいました。

 しかし、もてはやされる事が日常となったマークの態度は徐々に横暴になり、今となっては街の誰よりも自分の立場の方が上だと思うようになっていきます。

「俺は街の人達に代わって悪者を退治してあげてるんだ。

 敵から逃げたり、躊躇ったりするような奴らと一緒の扱いっていうのは英雄の俺に失礼だろ」

そう言ってマークは街の住人に対してふんぞり返るのでした。マーク以外に英雄を知らないシノは相変わらず兄の言葉がすべて正しいのだと信じ切り、一言一句逃さず心に留めては、早く英雄になりたいと希望に胸を膨らませています。

 

 

第2回 【歪む憧憬】

 

 その後もマークは英雄と称えられる日常を守るために日々魔獣を退治しますが、次第に魔獣が現れなくなってしまいました。同時にマークが活躍する場が減り、彼を英雄ともてはやす声も小さくなっていきます。

「まあいいさ、もう街に現れた魔獣退治だけじゃ認められないって言うなら、もっと派手に活躍するだけだ」

 マークはさらに強い力を街の住人に見せつけ、目覚ましい活躍をすれば再びもてはやされるのだと信じています。

 こうして功を急いたマークは率先して森の中へ入り、森に暮らす魔獣を殲滅しては自慢するようになりました。弟のシノもそんな兄の後ろを飽きる事無く毎回ついて行きます。

 

                   ◇

 

 ある日、街に盗賊が現れました。マークは鍛え上げた剣の腕でもって苦戦する事無く盗賊を切り殺します。それだけでは足りないと思ったマークは、街の外に潜伏していた盗賊も根絶やしにしました。こうしてマークの奮闘により誰一人、物を盗まれる事は無く事件は解決します。

 毎日そんな兄の後ろを付いて歩くシノの目には、問答無用で人間を切り殺す兄の背中が映っていました。

 また別の日には、街に夜盗が現れました。マークは率先して夜盗を追い、切り殺します。さらに夜盗の家族も共犯に違いないと考え、マークはろくに調べもせず切りかかりました。それ以降、マークのおかげで街の住人は一切被害に合わなくなります。

 しかし、マークが活躍するのと同時に、周辺地域からは無慈悲な街だと噂されるようになりました。さらに、マークが剣を振るえば振るう程街の住人は次第に彼を英雄とは呼ばなくなり、マークを遠ざけるようになります。

「何で街を救っているのに避けられるんだ?」

 マークは疑問に思いながらも、シノや他人に相談する事はありませんでした。なぜなら自分の考えが常に正しく、今までもこれからも間違える訳が無いと思っているからです。

「そうさ、もっともっと強い力を手に入れて悪者を殺していけば、

 また俺を英雄と呼んでくれるはずなんだ」

 マークは何故英雄と呼ばれないのか理解出来ないまま、今まで通りの方法を貫き、再び英雄と呼ばれる日を待つ事にしました。考える事を止めたマークはひたすら悪者を倒す力を求めて剣の腕を磨きます。

 

 

第3回 【継承者】

 

 街の人々はマークを恐れて、誰も口出し出来ませんでした。

「マークが街を救ってくれるのはありがたいけれど、

 何か1つでも悪さをしたら自分達も悪者として殺されるんじゃないか」

 街の人々はそう考えるようになり、マークに媚びへつらって再び英雄ともてはやすようになります。一方マークは、

「ようやく英雄の存在がいかに大事か思い出したようだな。

 まぁ、俺にとって悪者退治は害虫駆除と同じさ。

 現れたらすぐに殺さないと被害が出る。

 全部俺が駆除してやるから、みんなも協力してくれよ」

と満足げに語り、英雄を名乗り続けられる事を喜んでいました。

 

                  ◇

 

 そんなある日人攫いが街に現れたと聞いて、マークは率先して動きます。シノもいつもの様に兄の後ろを付いて行きました。マークは街の情報網を駆使して誰よりも早く人攫いの正体に見当を付けましたが、犯行の瞬間までその時を待ちます。

 そしていよいよ、人攫いが密かに家に侵入し、誰かと接触した機を見計らい突入。全力を持って切り殺しました。

 マークは自分の計画が上手く運んだ為誇らしげな笑みを浮かべながら、攫われそうになっていた人物に手を差し伸べます。

「どうだ、見てたか? 悪者は俺が退治したから大丈夫だぞ」

 現場に居合わせた人物は、まだ年端もいかない少女でした。

 マークはその少女の顔に見覚えがあります。それはマークが英雄になった時、初めて救った命である赤ん坊の成長した姿そのもの。しかし当時の朗らかな表情は見る影もなく、現在の表情は呆然としたまま凍り付き、身体はマークが切り殺した人攫いの男の返り血に濡れています。

「お……お父さん……何で……」

 少女の口からが感謝の言葉が出るとばかり思っていたマークは困惑しました。

 改めて倒れ伏した男の方を見てみると、その手元には可愛らしい彩りの花束に『たんじょうびおめでとう』というカードが刺さったまま、血の海に赤黒く染まっています。

「どういうことだ? 俺は人攫いだと噂を聞いて来たんだぞ」

 マークは少女に問いかけました。すると顔面蒼白だった少女は、マークの言葉を受けてゆっくりと目を見開きます。そして父親の仇であるマークを見据え、憎悪を込めて言いました。

「お父さんが何をしたっていうの!?

 ひ……人殺し……この人殺し!」

 とても子供の声とは思えない怒気を孕み、マークを睨みつける少女。英雄の原点とも言えるような存在の少女の言葉はマークの心に深く刺さり、とたんに胸が底冷えするような思いがして現場を立ち去りました。シノもそんな兄の後ろを追いかけます。

 この時のマークは知る由もありませんでしたが、人攫いだと噂されていた人物は家庭の事情でこっそり子供に会いに来ていた父親だったのです。少女の誕生日が近づきプレゼントを渡す機会を見計らっていた為、少女の後ろを付け回していた事からあらぬ噂が囁かれていたのでした。

 

                    ◇

 

 逃げるようにしてマークは人通りの無い道に入り、なぜか吹き出す冷や汗を拭います。マークは今まで数多くの『悪者』を殺して来ましたが、少女から『人殺し』と言われて初めて、自分の行いが『人間や生き物』を殺していた事に気が付いたのでした。

「俺が殺して来たのは悪者だ……人間じゃない。

 悪者を倒せば皆喜んでくれたんだから、

 正しい事に決まってるはずなんだ」

 そう自分に言い聞かせるマークをよそに、

「悪者を倒したんだし、早く街の人に知らせよう?」

 とシノは平然とした様子でマークを促します。

「……俺の代わりにお前が報告に行って来いよ。」

「どうして? いつもは兄さんが率先して知らせに行ってるじゃないか」

表情ひとつ変えないシノとは対照的に、マークは冷や汗を浮かべてひどく狼狽していました。

『お父さんが何をしたっていうの!?

 ひ……人殺し……この人殺し!』

 少女の言葉はマークの耳に付いて離れません。マークは漠然と今までの自分の行いが恐ろしい事のように思えて、後ろを付いてくるシノに言います。

「……俺、もう英雄を気取るのを辞めるよ。

 成りたければお前が成ればいい」

 そう告げて、血を拭き忘れたままになっているマーク自慢の剣を弟に渡しました。シノは真顔から一転して表情を輝かせ、満面の笑みで答えます。

「本当!? それじゃあ……

 兄さんに代わって僕が英雄になるね!」

 シノはようやく夢が叶う事への高揚感を隠すことなく嬉しそうに剣を受け取ると、何の躊躇いも無くマークの胸にその剣を突き立てました。

「あははっ、人殺しの悪者を倒したから、これで僕も英雄だ!

 そうだよね兄さん!」

 膝を付き倒れ伏すマークの姿を、誇らしげな顔で見届けるシノ。手際よく剣に付いた血を拭き取って鞘に収めます。その姿はまるでマークの生き写しの様でした。

「後は街の人に見てもらって、認めて貰えばいいんだよね」

 シノが軽い足取りで立ち去る姿を最後に見て、マークは自分の行ってきたことが間違いだったと思い知りながら――二度と開く事のない瞼を閉じるのでした。