徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

人形の騎士

続いて人形の騎士です。舞台の世界の名前がガガープトリロジーの世界らしいのですが、残念ながら私はPSPを持ってないのでプレイしたことがありません。その内移植しないかしら?

 

人形の騎士
【第1巻 人形使いの弟子】
むかーし、むかし。
ある小さな村に、1人の少年が住んでいました。
年の頃は13くらい。名前をペドロといいます。

ペドロは小柄で、力も強くなかったのですが
手先の器用さは誰もが舌を巻くほどでした。

使い慣れた小さなノミを魔法のように動かすと
あっというまに木彫りの小鳥のできあがり・・・
少年は、こうした細工で日々の糧を得ていました。

ある時、奇妙な旅人が村にやってきました。
鋭い眼光の老人と、黒衣の大男の2人連れです。

彼らは、なにげなく入った村の雑貨屋で
本物そっくりの木彫りの小鳥を見つけました。
はばたきすら聞こえそうな、ペドロの最新作です。

雑貨屋のあるじから場所を聞き出して
老人と大男はペドロの住む小屋を訪れました。

そして口を開くなり・・・


『支度せい。都へ出発するぞ!』


ペドロが目をまるくするのも無理はありません。
初対面の人間に、脈絡もなく命令されたのです。

『待ってよ。いきなり言われても。
あんたたち、いったい誰なん・・・』

ペドロは言葉を失いました。
後ろにひかえた大男に目を向けた瞬間
息を吐くのも忘れてしまったからです。

『ふむ。やはり気付いたか』

老人の指先からは、透明な糸が伸びていました。
糸を踊らせると、黒衣の大男が優雅に一礼します。
大男の正体は、からくりで動く人形だったのです。


『《黒法師》という。わしの最高傑作じゃ』


老人は悪戯っ子の笑みを浮かべました。
彼こそは、名匠カプリ・オラトリオ。
ヴェルトルーナに、その名を轟かせる人形師でした。


『お前なら、これ以上のものを造れるはず。
どうだ、ワクワクしてきたじゃろう?』

それ以上の言葉は必要ありませんでした。
使い慣れたノミをザックに入れて
愛用の帽子を頭にのせたら旅支度は終わりです。


ペドロは、名匠と共に故郷を旅立ちました。

 

 

【第2巻 蒼騎士】
ペドロが、王都の郊外にある
人形工房で働くようになってから
またたくまに3年の月日が過ぎ去りました。
人形師カプリの指導のもと
からくり人形を組み立てる技術と
人形をあやつる技術を学んだペドロは
修行の成果に、1体の人形を組上げました。

それは、青光りの甲冑をまとう人形でした。


カプリの傑作人形《黒法師》が
機動性重視の格闘タイプだとすれば
青い人形はバランスのとれた剣術タイプ。


黒法師の突きや蹴りを受け流しつつ
反撃するさまは、華麗な騎士そのままでした。

『なんと名付けるつもりじゃ?』

『それが、何も考えていないんです』

結局、ふさわしい名前を考えているうちに
《蒼騎士》とだけ呼ぶようになっていました。

都を治める国王が逝去したのは
ペドロが《蒼騎士》を組上げて
しばらく経ってからのことでした。


国王は、長らく病床の身だったので
騒ぎも起こらず、しめやかに喪が明けました。


そして定めに従い、1人娘だったティーア姫が
女王として即位することが決まりました。

 

 

 


【第3巻 都の帰路にて】
ペドロは《蒼騎士》をつれて都を訪れました。
戴冠式をひかえ、にわかに活気づいた街角。
道行く人々が好奇の視線を投げかけてきます。


『なんと立派な騎士様だろうねぇ』


『さぞかし名高い英雄にちがいあるまい』


戴冠式に出席されるのかな?』


澄ました顔で、蒼騎士の後ろを歩きながら
ペドロは小躍りしたくてたまりませんでした。


《黒法師》を人間のように操るカプリに
これで一歩近づいたような気がしたからです。


もっとも、自分が”従者”に見られるのは
ちょっとばかり面白くありませんでしたが。


ペドロが、鼻歌を歌いながら
郊外にある人形工房に戻る途中のこと。


『いやっ・・・やめてください!』


木々の間から、悲鳴が聞こえてきました。


『へへ、助けなんぞあるものか!』


『あきらめて、大人しくしやがれ!』


見れば、ゴロツキ風情の男たちが
女の子を押さえつけているではありませんか。


真っ白なドレスに包まれた、華奢な肢体が
いましめから逃れようと必死にもがいています。


帽子を目深にかぶったペドロは
指先を踊らせて《蒼騎士》を走らせました。

 

 

 

 

 

 

 


【第4巻 義を見てせざるは】
森の奥から、影のように現れた蒼騎士を見て
女の子を襲っていた男たちは目を丸くしました。


『娘を置いて、立ち去るがいい』

蒼騎士は、兜の奥から警告を発しました。
人形師の奥義のひとつとして
老師匠から叩き込まれた腹話術です。


『なんだァ・・・テメエは?』


『怪我しねえうちに、さっさと消えろ!』


『愚かな・・・』


蒼騎士は一足で間合いを詰めました。
正拳で、女の子を捕まえていた男を昏倒させ
ふり向きざまに2人の男を蹴り飛ばします。


『ケガはないかな、お嬢さん?』


『は、はい。平気ですわ』


『結構。離れているがよかろう』


蒼騎士は、ようやく剣を抜き放ちました。
黒装束をまとった、首領格の男が近づいてきます。


『流れ者か。やるようだな・・・』


そういう黒装束の構えも本格的で
正式な剣術の心得があることを
うかがわせました。


『だが、お遊びはここまでだ。
小金をくれてやるから、娘を渡せ』


『義を見てせざるは勇なきなり。
それは出来ぬ相談だな』


『ならば・・・死ねいッ!!』


鋭い気合いと共に、黒装束が襲ってきました。

 

 

 

 


【第5巻 空色の瞳の少女】
黒装束が襲ってきました。
右上段から、袈裟にかけると見せかけて
手首をひるがえした、抜き胴を払ってきます。
フェイントを読んだペドロは、糸を引きました。
蒼騎士は、半歩さがって水平の斬撃をのがれ
剣尖の伸びきった刀身を打ち落としました。


『ば、馬鹿な・・・』


黒装束は、痺れた腕を押さえて青ざめました。
それが合図となって、ゴロツキたちは
蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。


『ありがとうございます・・・』


女の子は、安堵のため息をついてお辞儀しました。
折り目正しい、良家のお嬢さんといった風情です。


『騎士として当然の務め。お気になさるな』


『あの、外国の方でいらっしゃいますか?』


ふとペドロは、いたずら心を出しました。


『遊歴の騎士ペドロと申す。
ちなみに、そちらの少年は私の従者である』


『えっ・・・』


ペドロがいたことに初めて気付いたらしく
女の子は面食らった表情を向けてきました。

しかし・・・
驚いたのはペドロも同様です。
いえ、その何倍も、何十倍も驚いたことでしょう。

ターコイズブルーの涼しげな瞳。
正面から見る可憐な容姿は、祭典の時などに
王宮のバルコニーで見かけるものと同じでした。


『お、王女殿下?』


純白に身を包んだ女の子は
父王を亡くして、戴冠式を直前にひかえた
ティーア王女殿下だったのです。

 

 

 

 

 

【第6巻 王女の憂鬱】
戴冠式が終わるまでの2週間
私を守ってくださいませんか?』

王宮の謁見の間。
ティーア姫は、真剣な面持ちで頼んできました。
もちろんペドロではなく、蒼騎士に向かってです。


『拙者ごときを頼みとせずとも
近衛騎士がおられるのではないか?』

蒼騎士が人形であることを言いそびれて
王宮まで付いてきてしまったペドロは
さらなる厄介ごとの予感に身震いしました。

『王都を守る近衛騎士団は・・・
叔父の、ガストン公爵の言いなりなのです。
先ほども、私を置いて逃げてしまいました』

ガストン公爵は、悪い噂の絶えない人物です。
前国王が病気がちだったのをいいことに
私腹を肥やしていたのは、公然の秘密でした。

『ペドロ様と剣をまじえた黒装束の方。
あれは叔父上の副官どのに違いありません。
すべては、仕組まれていたのでしょう・・・』

ティーア姫は、空色の瞳を曇らせました。
こうなってくると、お人好しのペドロに
護衛役を断るなんてできるはずもありません。


『わかり申した。お引き受けいたそう』


『よかった・・・ありがとうございます』


王女は、晴れ晴れとした笑みを浮かべました。
安堵のためか、ほのかな薔薇色に染まる顔を
従者を装っているペドロにも向けてきます。


『従者どのも、よろしくお願いしますね。
お名前はなんとおっしゃるの?』


『な、名乗るほどの者じゃありません』


ペドロは帽子を目深にかぶりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

【第7巻 穏やかならざる日々】
王女の護衛は、予想以上に大変でした。
なにしろ、毎日のように
ならず者が送り込まれてくるのです。
そのうちに、年が近いこともあってか
ティーア姫は、従者を装うペドロにも
親しく声をかけるようになりました。

王女の信頼は嬉しかったのですが
蒼騎士の正体が知れたらどうなることか。
ペドロは気が気でありませんでした。


一方、郊外にある人形工房には
ペドロからの伝言状が届けられました。


『何をやっとるんじゃ、あやつは・・・』


あいまいに綴(つづ)られた文面から
おおよその事情を察したカプリは
苦笑まじりに、ため息をつきました。


『じゃが、いい機会かもしれんな』


ほがらかで、性根もまっすぐなのに
いつも人形のことばかり考えているペドロ。

郊外に住んでいることもあって
親しい友人に恵まれていないにも関わらず
それを淋しく思っている様子も見られません。

王女殿下の護衛は恐れ多いながらも
これを機会に、人の情に目覚めてくれたら。
カプリは、親心にそう願うのでした。

 

 

 


【第8巻 闇を震わせるもの】

『なんと悪運の強い娘だ!』

蝋燭のゆらめく薄暗い居室。
ガストン公爵は忌々しげに罵りました。
姪への情はこれっぽっちも感じられません。


『このまま戴冠式を迎えさせるものか!
ペドロという騎士、なんとか始末できんのか?』


『あれほどの手練(てだれ)は初めてです。
近衛騎士団が、束でかかっても難しいかと・・・』


剣をはたき落とされた屈辱を思い出して
ガストン公爵の副官は唇を噛み締めました。

『しかし、ご安心あれ。
いささか風変わりではございますが
腕のたつ暗殺者を雇いましてございます』


『風変わりな暗殺者。いかなる者か?』


『・・・うふふ、呼んだかい?』


あでやかに炎が踊って、かき消えました。
とてつもなく重い何かが舞い降りて
絨毯敷きの床を、ずしんと揺らしました。

『な、なにやつ!?』


ガストン公爵は、後ずさりました。
月明かりに浮かんだ影は巨(おお)きく
人のシルエットではありえませんでした。

『閣下、ご安心を。
件の暗殺者で、ハーレクインといいます。
傀儡(くぐつ)を使って仕留めるそうです』


『うふふ、ボクは狩りが大好きなんだ。
活きのいい獲物じゃないと引き受けないよ』


病んだような哄笑が、闇を震わせると
公爵もまた、よこしまな笑みを浮かべました。


『安心するがいい。
きっと楽しい狩りになるだろう』


紅い月影に彩られた夜は
蕩けるように、ゆっくりと更けていきました。

 

 

 


【第9巻 小王宮の午後】
王宮の午後は、中庭での茶会で始まります。
王女はいつものようにポットを傾けて
3つのカップに、紅茶を注ぎわけました。

『さ、どうぞ召しあがれ』


『かたじけない』


『いただきます』


ペドロは左手で蒼騎士を動かしながら
王女が淹れてくれた紅茶をすすりました。
忙しい1日で、もっとも幸せな瞬間です。

『従者どのは、とっても美味しそうに
召しあがってくださるのですね。
淹れる方としても腕が鳴りますわ』


『はは・・・恐縮です』


苦笑しながら、ペドロは糸を引きました。
蒼騎士の喉に取り付けられた革袋の中に
淹れたての紅茶が一気に注がれていきます。


ティーア姫は、はぁと溜息をつきました。


『それにひきかえペドロ様ときたら
ちっとも美味しそうじゃないんですもの。
張り合いがありませんわ・・・』


『面目ない。不調法なものでな』


ペドロは内心、ヒヤリとしましたが
澄ました顔で蒼騎士に答えさせました。

これまで、暴露してもおかしくない瞬間は
幾度となくあったのですが、ティーア姫は
蒼騎士の正体を疑うそぶりも見せませんでした。


ふと王女が、淋しそうにうつむきました。


『楽しい午後も、明日で終わりですね。
あさっての戴冠式が終われば
お二人は都を発たれてしまうのですもの・・・』

 

 

 

 

 

 

【第10巻 かすかな痛み】
さみしそうな王女の口調に
ペドロの胸が、とくんと高鳴りました。


『武者修行の身なれば・・・申しわけない』


『いいえ、私の方こそ。
こんなことでは、立派な女王になれませんね』


王女はにっこりと微笑みました。
人形操りも忘れて、ペドロは顔を伏せました。

護衛として側にいたいのは山々でした。
いくら高貴な身分とはいえ
ティーア姫が、父親を亡くしたばかりの
孤独な女の子であることには変わりありません。
ですが、頼られているのは蒼騎士であって
従者風情のペドロではありません。
王女にとって、ペドロは単なるオマケなのです。

そう思うと、なぜか胸が苦しくなりました。
こんな苦しみは、人形を作っている時には
けっして味わったことがありませんでした。

結局、ペドロは選んでしまったのです。
たとえ王女を悲しませることになっても
耐えがたい胸の痛みから逃れることを・・・


『あの、おかわりはいかがですか?』


重くなった空気を繕(つくろ)うように
王女は笑顔で提案しました。


『いいねぇ、ボクにもご馳走してよ?』


不気味な笑いと共に、影が飛来しました。


『きゃっ・・・』


『なにッ!?』


突風が中庭を吹き荒れて
ティーセットが吹き飛ばされました。


紅の翼をはためかせ、降りてきたもの。
それは、悪魔をかたどった巨大な人形でした。


『優雅なお茶会も悪くないけどさ。
ボクの遊びにも付き合ってくれない?』


悪魔の左腕には人影がひとつ。
仮面の人形師、ハーレクインです。


『たっぷりと楽しませてあげる』

【第11巻 魔人襲来】

ティーア様、下がって!』

ペドロは、王女を背中にかばいながら
紅い悪魔の右隣に、蒼騎士を走らせました。
仮面の人形師の死角になった場所です。


ふり向きざま、重さをのせた一撃を放ちます。
剣尖は、翼の根元に吸い込まれていきました。


刹那、悪魔の右腕が跳ねあがりました。
刃と爪がこすり合い、火花を散らしました。

バランスを崩して、たたらを踏む蒼騎士。
追い討ちをかけるように、丸太のような尻尾が
うなりをあげて襲いかかります。

手練(てだれ)の技に舌を巻きつつ
ペドロは蒼騎士にもんどりを打たせ
尻尾の薙ぎ払いをかわしました。


『キミ、やるじゃない。
まさか同業者とは思わなかったよ』


仮面の人形師は、蒼騎士でなく
ペドロに向かって語りかけてきました。


蒼騎士が、その言葉をさえぎるように
人形師に向けて剣を突き付けました。


『何をぶつくさ言っている!
来ないとあらば、こちらから参るぞ?』

この期におよんで、ペドロはシラを切りました。
ティーア姫は、不思議そうな顔をして
一連の奇妙なやりとりを眺めていました。


『なーるほど。そういうことか・・・』


人形師は、事情を悟ったようで
くすくす笑いました。

『ボクだって野暮じゃない。
内緒にしたいのなら黙っててあげる。
でもさぁ・・・』


人形師の声音が、黒い響きを帯びました。


『そんな腑抜けた根性で
ボクの《カラミティ》に勝とうだなんて
甘すぎるんだよぉぉぉっっっ!!』

 

 

 

【第12巻 紅蓮の悪魔】
悪魔人形《カラミティ》が地を蹴りました。
反動をつけて、一瞬で間合いを詰めてきます。

ペドロの反応が、ほんの少し遅れました。
後ろの王女に悟られたくなかったからです。
そこに生じた、わずかなスキが致命的でした。

まず、剣が宙にはじかれました。
続いて、凶爪が立て続けに叩き込まれ
青い胸甲がバターのように抉られました。


『ほーら、どうしたのさぁ?』


尻尾がしなり、すらりとした両腕が
ぐしゃりと無残に潰されました。


『くふふ、捕まえた♪』


鉤爪が、羽根飾りの兜を鷲掴みにすると
蒼騎士の爪先が、大地から離れていきました。


『や、やめろぉぉっ!』


丹誠こめて作った初めての人形が
めちゃくちゃに壊されてしまう・・・
ペドロは、我をわすれて駆け寄りました。


『せっかちさんだなぁ。
心配しなくても、返してあげるのに』


紅い悪魔は、蒼騎士を高々と持ち上げ
ペドロに向かって投げ飛ばしました。


『ぐふっ・・・』


全身を衝撃が襲って、ペドロと蒼騎士は
おり重なるように芝生に叩き付けられました。


『もう、やめてください!』


王女が、大の字に両手を広げて
人形師の前に立ちふさがりました。


『この身をあなたに預けます。
そのかわり、これ以上の暴挙は許しません!』

 

 

 

 


【第13巻 別れの挨拶】
『この身をあなたに預けます。
そのかわり、これ以上の暴挙は許しません!』


凛としたティーア姫の言葉に
人形師は、音を立てて舌なめずりしました。


『護衛ごときを、身を挺してかばうの?
うふふーん、泣かせるお姫様じゃないか』


『い、いけません、ティーア様・・・』


ペドロは気が遠くなりながら
必死になって言葉を絞り出しました。
腹話術を使っている余裕などありません。


『僕の主人なら・・ペドロなら平気です。
彼にまかせて・・はやく逃げて・・・』


『ペドロ様は、黙っててください』


どこか怒ったような王女の口調に
ペドロはまじまじと、目を見開きました。


『ま・・・まさか?』


『ごめんなさい。
気付かないふりをしていました』


王女は、さみしそうに微笑んでから
おごそかな表情で人形師に向き直りました。


『さあ、叔父上の所に連れていきなさい』


『やれやれ、大したお姫様だなぁ。
さぞかし立派な女王様になっただろうに』


悪魔は、うやうやしく右腕を差し出しました。
王女を載せると、紅の翼が羽ばたき始めます。


『ペドロ様、ありがとうございます。
この1週間、とっても楽しかった・・・』

別れの言葉が脳裏に染み入ります。
緋色の影が青空に吸い込まれるのを見ながら
ペドロの意識は、闇に沈んでいきました。

 

 

 

 

【第14巻 欺瞞の代償】
翌朝、ペドロが目を覚ますと
そこは人形工房の自室でした。


使い慣れた、ほどよい硬さのベッドに
夢だったのかと安堵するペドロ。


『おお、身体の調子はどうじゃ?』


工房からカプリが声をかけてきました。


奥にある工作台の上には
バラバラになった青い部品が載っています。
ペドロは、あわてて飛び起きました。


『夢じゃ、なかったんだ・・・』


どうやらカプリが《黒法師》を使って
ペドロ達を王宮から運んでくれたようです。


『僕のせいだ・・・』


残骸と化した蒼騎士を眺めながら
ペドロは乾いた口調で呟きました。


ターコイズブルーの涼しげな瞳。


陽だまりのような暖かい微笑み。


紅茶を淹れてくれた、しなやかな指先。


ペドロは、ぎりりと唇を噛みしめました。


『蒼騎士じゃ駄目だったんだ。
僕に、人形師としての才能があったら
ティーア姫を守ることができたのに・・!』


『まだ、判っとらんようじゃな』


カプリは、あきれたように呟いて
いつになく厳しい表情を浮かべました。


『お前に足りぬのは、ここじゃ!』


ぴしりと、ペドロの胸を指差します。
ペドロは目をぱちくりさせました。

 

 


【第15巻 ささやかな決意】
『殿下は、蒼騎士の正体に気付いておられた。
それなのに、あえて知らぬフリをされたのじゃ。
お前は本当に、その理由が判らんのか?』

『そ、それは・・・』


不意に、脳裏にひらめくものがありました。


"ペドロ様は、黙っててください"
そう言った時の、どこか怒ったような表情。


"気付かないふりをしていました"
そう打ち明けた時の、さみしそうな笑顔。

胸の奥で、熱いものが込み上げました。
ペドロは顔を上げて、カプリの鋭い視線を
真正面から受け止めました。


『師匠、お願いします!
蒼騎士の修理、手伝ってください!』

『お前が戦った仮面の人形師は
その道では、悪魔のように恐れられる男じゃ。
半人前ごときに、太刀打ちはできんぞ?』

『それでも、やります。
僕を信じてくれた人のために!』

すると、得たりとばかりに
カプリは莞爾(かんじ)と笑いました。


それは、戴冠式の前日のこと。
おりしも王宮は、王女失踪の報せに
上へ下への大騒ぎになっていました。

 

 


【第16巻 公爵家別邸】
深紅の絨毯敷きの、贅を尽くした部屋。
郊外にあるガストン公爵の別邸・・・


『いいザマだ、ティーア』


満足そうな表情で、ガストン公爵は
椅子に縛られた王女をねめつけました。


『今日の戴冠式
どうするおつもりですか?』


静かな声で、ティーア姫が訊ねました。
凛とした瞳の色に、公爵はたじろぎました。

『そなたには欠席してもらう。
そして、第2王位継承者たる私に
冠と杖が授けられるというわけだ』


『民が納得するとお思いですか?』


『話が変わるが、ティーアよ。
そなたの嫁ぎ先を決めてやったぞ』


空色の瞳が、一瞬だけ揺れたのを見て
公爵は、不適な笑みを浮かべました。

『帝国の第2皇子で、なかなかの良縁だ。
後事は私にまかせ、そなたは新たな地で
女としての幸せを掴むがよかろう』

何という卑劣きわまる手段でしょう。
第1王位継承者たる王女の代わりに
公爵が即位するのは、たしかに通らぬ道理。

ですが、王女が嫁ぐとあれば話は別です。
ガストン公爵の即位は、既成事実として
まかり通ってしまうのが目に見えていました。


『閣下、そろそろ時間ですぞ』


副官の促しに、公爵は立ち上がりました。


『毎日の襲撃続きで、さぞ疲れただろう。
そなたは、ゆっくりと休んでいるがいい』

ぬけぬけと、恥知らずに言って
公爵は部屋を出て行こうとしました。
その時・・・


『そうはいかない!』


けたたましい衝撃音と共に
ガラス窓が、枠ごと吹き飛ばされました。

 

【第17巻 そして少年は男になる】
しなやかな豹のように
窓から滑り込んできたのは
蒼い甲冑を身につけた、長身の騎士。

そして、帽子をかぶった小柄な少年でした。


ティーア様、すみません。
ちょっと遅れてしまいました』


『ペドロ様・・・
やっぱり、来てくださいましたね』


泣き笑いのような表情を浮かべる王女。
照れくさそうに、少年が微笑み返します。


2つの視線が、しっかりと絡み合いました。


『こら! 時と場所をわきまえんかっ!』


すっかり無視されてしまった公爵は
口からアワを飛ばして喚きました。


一方、公爵の副官は、こっそりと
縛られた王女の背後に忍び寄りました。


副官が、王女の肩に手をのばした時。
弩(いしゆみ)のごとく蒼騎士が迫りました。


『ふごっ!?』


哀れな副官は
蒼騎士の平手打ちをくらって
壁に激突して気絶しました。


『そ、そんな出鱈目な・・・』


真っ青になったガストン公爵は
転がるようにして部屋を出て行きました。


ティーア様、急ぎましょう!
もうすぐ戴冠式が始まります!』


『はい!』


屋敷を脱出して、公爵を追いかける2人。
しかし、その行手をさえぎるように
緋色の影が、地響きと共に降り立ちました。


『悪いけど、邪魔させてもらうよ。
人形師は信用が1番だからね、うふふ』

仕事とは思えぬ楽しげな口調。
仮面の人形師、ハーレクインと
紅い悪魔人形《カラミティ》です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第18巻 赤と青の決戦】
交わりあう白刃と凶爪。
めまぐるしく入れ替わる赤と青。
闘いの火蓋が切って落とされました。

『へぇ、動きが良くなったね?』


驚いたことに、蒼騎士の動きは
紅い悪魔人形《カラミティ》を
ほんの少し上回っているようでした。

『バラバラに壊してやったのに
1日で元どおりにするなんてね。
爺さんも、いい弟子をとったじゃない』


『あんた、師匠の知り合いなのか?』


『昔、ちょっとした因縁があってね』


カラミティは、翼をはためかせて
ゆっくりと上空に浮かび上がりました。


『さーて、こいつはどうかな?』
一声吠えて、急降下しました。

ペドロは糸を後ろに引きました。
頭上から迫った、鋭く大きな爪を
蒼騎士はバックステップで躱しました。


『じゃあ、これはどう?』


カラミティは、流れるような動きで
丸太のような尻尾を横殴りに放ちます。

ペドロは糸を右下に流しました。
腰を落とした蒼騎士は、剣を斜めに構えて
尻尾の勢いを、上方へ削ぎ落としました。


『なら、これはどうだいっ!?』


カラミティは、角の生えた頭を振りかぶり
蒼騎士の胴体めがけて突き上げました。

ペドロは糸を左上に弾きました。
ななめ後ろに身体をさばいた蒼騎士は
紫電の迅さで、剣を振り下ろしました。


ざくりと小気味よい響きとともに
紅の翼の右側が、斬り落とされました。

 

 

 

 


【第19巻 灼熱の咆哮】
舞い落ちる真紅の翼
仮面の人形師は、あわてた動作で
蒼騎士との間合いをとりました。

『ね、このあたりで休戦にしない?』


無理を承知で、ペドロは提案しました。
案の定、嬉しそうな声が返ってきます。


『冗談を言ってもらっちゃ困るなぁ。
こんな面白いの、久しぶりなんだから!』

ゆがんだ悦びに浸りきった様子で
ハーレクインは、両手を複雑に動かしました。
まるで、魔法陣を描いているような仕種です。


『まさか、ボクにこれを使わせるとはね・・・』


カラミティが、両腕を交差させながら
抱きしめるように身体を縮めていきます。
ちりちりと、焦げくさい匂いがしました。

ペドロの背筋に寒気が走りました。
あわてて蒼騎士を動かそうとしますが
背後に、王女がいることに気付きました。


『あの世で後悔するんだなぁぁぁぁっ!』


紅い悪魔が仁王立ちになりました。
刹那、巨大な顎(あぎと)から
真紅の火球がほとばしりました。

あたり一面に立ち上る火柱。
蒼騎士とペドロ、そしてティーア姫は
灼熱の中に呑み込まれていきました。


『ちぇっ、これで終わりか・・・
少しもったいないことしたかな?』

燃え広がる火勢を眺めながら
ハーレクインは、残念そうに呟きました。
しかし、すぐに訝しげに目を細めました。


肉の焦げる匂い、鋼の煤けた匂いが
まったく漂ってこなかったのです。


『まさかッ!?』


灼熱の紅蓮を吹き飛ばすように
一陣の蒼い旋風が巻き上がりました。

 

 

 


【第20巻 死闘の行方】
炎の中から蒼騎士が立ち上がりました。
その肩越しに、ペドロと王女が
元気な姿を覗かせています。

荒ぶる炎を吹き飛ばしたもの。
それは、両手持ちの大剣でした。


幅広の刃を、風車のごとく回転させると
蒼騎士の頭上に、火焔の蝶が舞い散ります。


それは、あまりに幻想的な光景でした。


『くっ、そんなものでッ!?』


ハーレクインは、両手で印を組みました。
ふたたび火球を撃ち出すつもりでしょう。


『させるもんか!』


紅蓮をかき分けながら
蒼騎士がカラミティに迫りました。


次の瞬間、角の生えた頭部が
まっぷたつに断ち割られました。


『うふふ・・見事・・だよ・・・』


発射寸前だった火球が膨れあがって
小規模の爆発を引き起こしました。

爆風に煽られ、浮きあがる蒼騎士。
ペドロは両脚をふんばって
なんとか無事に着地させました。


『ペドロ様、大丈夫ですか!?』


『僕の方はなんとも・・・
でも、あいつは助からないでしょう』


敵とはいえ、命までも奪ってしまった。
その罪悪感に打ちひしがれるペドロ。


ティーア姫は、そんなペドロの背中を
包み込むように抱きしめました。


『・・・勝手に殺してもらっちゃ困るなぁ』


火柱の中から、囁くものがありました。
それは、どこか満ち足りたような口調でした。


『今回は、大人しく引き下がってあげる。
次に会うときが楽しみだよ。うふふ・・・』

地響きとともに
赤黒い影が、火柱の向こう側に
去って行く気配がしました。


ペドロと王女は顔を見合わせて
弾かれたように笑い声をあげました。

 

 

 

 

 

 

 

【第21巻 傀儡師たちの思惑】
少年少女と、1体の人形が
足取りも軽く王都に向かった頃・・・

仮面の人形師は、焦げた人形に乗って
深い森をひた走りに進んでいました。
ふと立ち止まって、木陰に語りかけます。


『いるんでしょ、カプリ爺さん?』


『ふん。気付いておったか・・・』


ペドロの師匠、カプリが現れました。
例によって《黒法師》と一緒でしたが
奇妙なことに、人形の両腕がありません。

『思った通り、青い人形の腕は
黒法師のパーツを使って直したんだね。
どうりで、動きがいいと思ったよ』

『まあ、ペドロとお前さんとでは
あまりに実力の差がありすぎるからの。
ハンデを付けさせてもらったまでじゃ』


しれっと言う老人形師に
ハーレクインは肩をすくめました。

『ま、楽しませてもらったからいいけど。
でも、今回の件を《十三工房》に知られたら
ペドロ君も、タダでは済まないんじゃない?』

十三工房。
その不気味な言葉を耳にした途端
カプリは、表情を強張らせました。


『うふふ。それじゃあ、近いうちに』


含み笑いを残して、仮面の人形師は
深い森の奥に消えていきました。


『人形師が1度は通る道じゃ・・・』


老人形師は、沈んだ声で呟きました。
まるで自分自身に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

【第22巻 大団円~ひとときの安らぎ】

王宮の午後は、中庭での茶会で始まります。


女王陛下はいつものようにポットを傾けて
2つのカップに、紅茶を注ぎわけました。


『さ、どうぞ召しあがれ』


『いただきます』


カップを手にした少年の後ろには
蒼い甲冑を身につけた騎士がいました。
ただし、彼が口を開くことはありません。


『結局、公爵はどうなったんですか?』


戴冠式の夜、ガストン公爵は
家臣とともに行方をくらましました。


なにしろ、大勢の国民の前で
王女に即位を宣言されてしまったのです。


事態を静観していた近衛騎士団も
土下座して、新女王に忠誠を誓うしまつ。


公爵が、王女誘拐の罪に問われる前に
亡命を企てたのも無理はありませんでした。

『叔父上は、帝国に身を寄せています。
私の縁談相手として交渉していた第2皇子に
つてがあったようですね』


ここで、女王はくすりと微笑みました。


『ただ・・・先方には
露骨に迷惑がられているようです。
ちょっと、可哀想かもしれませんね』


『同情することありませんよ。
まったく、ティーア様は人がいいんだから』

正直なところ、ガストン公爵が
このまま黙って引き下がるとは
どうしても思えないペドロでした。


それに、不気味な仮面の人形師
ハーレクインの動向も気になります。

互いに面識があるようでしたが
師匠のカプリは、言葉を濁して
なにも教えてくれませんでした。

いずれにしても、近いうちに
もう一波乱あるに違いありません。
ペドロは蒼騎士の改造を決意しました。


『もう、ペドロ様ったら』


ちょっと拗ねたような口調に
ペドロは我に返りました。


『お茶が冷めてしまいますよ?』


青空を映した、涼やかな瞳が
"大丈夫"と安心させるように
いたずらっぽく輝いています。


照れくさくなったペドロは
ぬるまった紅茶で喉を潤しました。


―(完)―