徒然雑記帳

ゲームプレイを中心に綴っていくだけのブログ。他、ゲーム内資料保管庫としてほいほい投げます。極稀に考察とかする…かな?お気軽に読んでいってください。

さよならを言えたら

閃の軌跡Ⅳより、さよならを言えたらです。

 

さよならを言えたら

 

 

上巻 【今は遠い日々】

 

「こんなはずじゃなかったんだ――」

 サイは自分がしたことを後悔していた。人生をかけて作った、持てる技術の集大成とも呼べる発明品。それがようやく完成した今、彼はこんな物作るのではなかったと嘆いている。どこで間違えたのかは分からない。しかし、どこかで間違えてしまった事だけは確かだった。

 時は彼が若かった頃まで遡る。サイは物作りが大好きな少年だった。その中でもとりわけおもちゃ作りが大好きで、寝る間を惜しんでおもちゃを発明する生活を送っていた。街の大人たちは彼の作るおもちゃが理解できず、彼を変わり者扱いして遠ざける。一方子どもたちはというと、誰もがサイのおもちゃで遊び、彼がおもちゃを配るために公園を訪れる日を指折り数えるほど、彼と彼の作るおもちゃが大好きだった。

「次はどんな新しいおもちゃを作るの?」

 少女は少し大きい机に腕を乗せて、サイに教えて教えてとせがむ。

「そうだなぁ、どこを歩いても物凄く滑る靴なんてどうかな?」

「わぁ、どこでも滑れるの! 絶対楽しいよ! 

 そうだ、滑った所に色が付いたらもっと楽しくなるんじゃない?」

 そう言って快活に飛び跳ねる少女の名はマルタ。栗色のくせっ毛が可愛らしい少女だった。サイの作るおもちゃの一番のファンであり、同時にアドバイスをくれる友達だ。ほぼ毎日彼の家に来ては、おもちゃ作りをするサイの様子を眺めている。サイが自分を見ていて楽しいのかと尋ねると、マルタは

「楽しそうにおもちゃ作りをしてるサイのお兄ちゃんを見てると、私も楽しくなるんだもん!」

 と返すのだった。

                    ◇

 今日は完成したおもちゃを公園で子供たちに配る日。お金にならない事は分かっている。それでもサイは、喜んでもらえるだけで嬉しかったのだ。奇異の目を向けてくる大人たちの間をサイはおもちゃを両手いっぱいに抱えて歩き出す。

「おーい、サイお兄ちゃん!」

 遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた。人混みに紛れてよく見えないが、その声は間違いなくマルタのものだ。彼女もサイが配るおもちゃを買うため、公園に向かっているに違いない。サイは来た道を少し戻りマルタの姿を探すと、大人たちの波に揉まれて前に進めない様子の彼女を発見する。今日は何でこんなに街の通りが混んでいるんだろう。ふと、そう思ったサイが人混みに耳を澄ませると「早く逃げろ」といった怒声が遠くから聞こえてきた。

「マルタ、早くこっちにおいで!」

 両手いっぱいに抱えた新作のおもちゃを手放してマルタの方に手を伸ばす。それに気が付いた彼女も手を伸ばした、その時だった。――馬車を引いたまま暴れた馬がサイの目の前の人混みを轢いて行ったのだ。

                    ◇

 土砂降りの雨の中、サイは静かにお墓の前にかがみこんでいた。

「マルタ、僕の作ったおもちゃで遊んでくれないのかい」

 冷たく鎮座する墓石は何も答えない。

「また、僕が作ったおもちゃにアドバイスをおくれよ。

 また、一緒に笑い合っておくれよ」

 そう語りかけるサイの目からは絶え間なく涙が溢れていた。

しかし、自分が涙を流している事に気付いていない。

「だから少し待っていてくれ。僕が必ず、今の君にも遊べるおもちゃを作ってみせるからね」

 

 

中巻 【禁忌の代償】

 

 あれから2年。おもちゃを作り終えた彼は両手いっぱいにおもちゃを抱えて、墓地に向かっていた。子どもたちのお墓におもちゃを置いては、遊んでくれるまで待つ日々。

「調子はどうだいマルタ。近頃、ここにいる子達におもちゃを上げても遊んでくれないんだ。

 何がいけないのか君の意見を聞かせておくれよ」

 サイはおもちゃであふれかえった墓石――マルタのお墓に向かって今日も話しかける。おもちゃが動いたり、無くなっていたりしたら、きっと遊んでくれたのだと思うことが出来た。しかし、どの子どものお墓におもちゃをあげても、どれだけおもちゃの数を積み重ねても、誰かが遊んでくれる日は来なかった。

「ああそうか、きっと今の君に合う素材で作らないと触れないのかもね。少し見直してみよう」

 一人で納得した様子のサイは、遊ばれることの無いおもちゃをお墓に残して立ち去った。

                    ◇

 そんな日々がどれほど続いたのか。目を赤く腫らしながらサイはいつものようにお墓におもちゃを持って行き、今度こそは遊んでくれるのではないかという期待を何度も裏切られ続ける日々――そんなある日の晩、彼は突然思いついた。

「そうか、透明になった君に実体があれば、普通のおもちゃで遊べるじゃないか」

 なんで気が付か無かったのだろうと自分で自分に驚きつつ、サイは急いで家に帰ると研究を始める。

                    ◇

 それから30年。サイは寝食も忘れて、ぽつりぽつりと落ちるものを拭いながら霊体に実体を持たせる研究を続けていた。研究に研究を重ねた末、ついに理論的には霊体を実体化出来る機械を完成させることとなる。早速、機械を起動するためお墓に向かった。

 サイが複雑に鋼を織り交ぜた機械を起動させると、独特な音波が鳴り響いた。音波は波紋を広げるように、建物から人まで、あらゆる『実体』の中に響き渡る。空気がパキパキと軋みを上げた後には、澄んだ静寂が訪れた。これは成功したのではないか、と握った拳に力を込めるサイ。しかし、いくら待っても、マルタやお墓の子ども達の姿が現れる事も、声が聞こえてくることも無かった。

「そんな、失敗したっていうのか?」

 装置を起動して、何かが起こったという手応えは確かにあった。何も起きていないはずはないと、サイは幽かな期待を胸に街へと足を運ぶ。

 ――辿り着いた街に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。多くの人と物で溢れ返っていた街はひどく静まり返り、道という道には街の人々が倒れ伏していたのだ。折り重なるように無造作に倒れ伏す人々が、まるで身体という器を脱ぎ捨てたかのように見える。

「僕は一体なにをしてしまったんだ……

 僕はただ霊体に実体を与えたかっただけなのに――」

 自らの過ちに呆然とするサイ。こわばる足を何とか動かして、生きている者を探すために街を彷徨った。しかし沈黙した街で生きている者は彼一人。時が経つにつれて、サイは自らの手で犯した罪の重さに耐えかね膝をつく。

「ああ……こんなはずじゃなかったんだ。

 そんなつもりは無かったんだ……!」

 死者の街と化したこの場所で、皮肉にも誰よりも死者に会いたいと願っていた彼一人だけが生きている。サイの嘆きに応える者は無く、慟哭は冷えきった街に吸い込まれて消えた。

 

 

 

最終回【哀悼の蝶】

 ただ、昔のようにおもちゃを手に取って一緒に笑い合いたかっただけだった。サイにとっては、ありふれた当然の願い。しかし自然の摂理からすれば、人の身では届くはずのない無謀な願いだった。今となっては忌々しい存在となり下がった装置を抱えながら、サイは街中の人々を殺した罪に、ただただ絶望していた。

「どこで間違えたっていうんだ? どうすれば許されるんだ?

 誰か……誰か応えてくれ……」

 その時、幽かにではあるが肩に何かが触れた気がした。誰かを求めるあまり、自分で勝手に作り上げた幻覚かもしれない。それでもサイは期待を込めて自分の肩を確認する。

「なんだ……やっぱり気のせいか、ははは……」

 期待したような誰かの手も、風に舞う落ち葉さえも無い。自分が馬鹿らしくなったサイの口からは、自然と乾いた笑いが込み上げていた。

「ようやく笑ってくれたけど

 楽しくなさそうだね、サイお兄ちゃん」

 突然、少し拗ねたような少女の声が聞こえた。忘れる訳もない――それは親友マルタの声。

「マルタなのか!? そこにいるなら姿を見せてくれ!」

 幻覚でもなんでもいい、今は自分を一人だと思いたくなかった。サイは無人と化した街を縋るように見回す。しかし依然として人影が現れることは無い。それでも、彼が求めてやまなかった彼女の声だけは近くに感じる。

「サイお兄ちゃんってば、ずっと泣いてるんだもん。

 いつ笑ってくれるのかなぁと思ってたんだよ」

「泣いてなんかいないよ。 

 だって君と二度と会えなくなった訳じゃない。

 またいつか会えるのに、悲しむ必要なんて無いんだから」

 そう言いつつサイが自分の目元を触ると、濡れた頬を伝ってとめどなく涙が溢れていた。いつから泣いていたのかと振り返ってみれば、ずっと昔から泣いていたような気もする。

「ああそうか――本当は、僕も初めから分かっていたんだ。

 もう君と二度と笑い合えないってことを」

 そう呟くと、自分が休むこと無く研究に明け暮れて、わざと盲目的に生きてきた30余年の理由に納得がいった。

「昔はおもちゃ作りが楽しかった。

 皆が笑ってくれるだけで楽しかったよ。

 だけどそれは全部、僕の一番の友達のマルタが側で一緒に笑っていてくれたから楽しかったんだ。

 だから、君がいない現実を認めたくなかった僕は、まだ君がいると信じたかった。

 だけど――君はもう、死んでしまったんだねマルタ」

 サイは自分でも気が付かなかった心の内を虚空に向かって語りかけた。言い終わると同時に、今まで感じることの無かった陽の光の眩しさに目が眩みサイは目を閉じる。長い間研究に没頭していた彼にとっては朝も夜も関係なく、天気を気に掛ける余裕など無かったのだ。陽射しの暖かさに慣れた頃に目を開けると――そこには、膝をついたサイと同じくらいの背丈の女の子、マルタが居た。

「うん。マルタも悲しいけど、一緒に笑い合うことはできない。

 だけどね、サイお兄ちゃんがちゃんと前を向いて生きてくれたら、マルタはそこにいるんだよ」

 そう言って、泣き止んだサイの顔を覗き込んで微笑む姿は昔のままだった。

「前を向いて生きないと、一緒にいてくれないのかい。

 ――どうりで、今まで寂しかった訳だ」

 マルタの笑顔につられて、サイも自然と微笑む。

「うーん、この装置みたいな物はおもちゃじゃないの?

 サイお兄ちゃんはおもちゃ作り以外ダメダメなんだから、無理しない方がいいよ」

「そうだね、本当に僕はおもちゃ作り以外失敗ばっかりだ……」

 そうして他愛もない会話をしながら、互いに互いの笑顔を見られたことが嬉しくて2人はしばらく笑い合った。

                    ◇

 白昼夢のような暖かい時間はゆっくりと過ぎて行った。冷え切ったこの街で、2人の声だけが熱を持っている。交わす言葉の切れ間にふと感じる街の静けさが、サイを夢から醒まさせるようだった。

「……まだ皆が戻れるうちに、オバケから戻してあげないと。

 マルタね、空の女神さまにお願いしてたの。

 サイお兄ちゃんは悪い事をしようとしていたんじゃないです、許してくださいって。

 そしたら、さよならを言えたら許してくれるって言ってたよ」

 サイの不安を感じてか、彼から一歩後ろに下がり寂しそうに笑う。

「だから……ばいばい、サイお兄ちゃん。

 楽しそうにしているお兄ちゃんが好きだよ」

 サイは立ち上がって、マルタを真っ直ぐにとらえながら言葉を告げた。

「ありがとうマルタ。また会うことが出来て嬉しかった。

 君に応援してもらえるような生き方をするから、どうか見ていてほしい」

 サイは自分の頬を熱い涙が濡らしていることに気が付いた。

長い年月をかけて求めていた奇跡が、自分の一言で終わってしまう。この時を手放したくないと心が喚いていた。それでも、今を生きていこうとする覚悟の芽生えが、彼の口を動かす。

「それじゃあ――――ばいばい、マルタ」

 サイが精一杯の笑顔を作って言い終わると同時に、街の空気がパキパキと軋みを上げた。命の気配が色濃くなるにつれて、笑顔で手を振るマルタの輪郭は、陽の光に溶け込んで消えて行くのだった。

                    ◇

 気が付くと、サイは大勢の人が行き交う街の喧騒の中に立っていた。何ことも無かったかのように過ごす街の人々の様子を見届けてから、発明品を抱えて家路につく。

 すると、公園の近くを通りがかった時に子どもの声がサイを引き留めた。どうやら彼が持っている装置が珍しかったようで、「なにそれー?」「どう使うのー?」

 と無邪気に問いかけてくる。サイはその場で腰を下ろし、30年かけて作り上げた装置を解体して簡単なおもちゃを作った。

「ほら、導力仕掛けの蝶だよ。

 風に乗ってどこまでも飛んで行けるんだ」

「すごい!」「どっちが遠くまで飛んでいくか競争しようぜ!」

 子どもたちは口々に声を上げて、サイが作ったおもちゃを手に取って行く。青空に舞う導力仕掛けの蝶を眺めながら、サイは子ども達と一緒に笑い合うのだった。

 

さよならを言えたら 最終回【哀悼の蝶】

 ただ、昔のようにおもちゃを手に取って一緒に笑い合いたかっただけだった。サイにとっては、ありふれた当然の願い。しかし自然の摂理からすれば、人の身では届くはずのない無謀な願いだった。今となっては忌々しい存在となり下がった装置を抱えながら、サイは街中の人々を殺した罪に、ただただ絶望していた。

「どこで間違えたっていうんだ? どうすれば許されるんだ?

 誰か……誰か応えてくれ……」

 その時、幽かにではあるが肩に何かが触れた気がした。誰かを求めるあまり、自分で勝手に作り上げた幻覚かもしれない。それでもサイは期待を込めて自分の肩を確認する。

「なんだ……やっぱり気のせいか、ははは……」

 期待したような誰かの手も、風に舞う落ち葉さえも無い。自分が馬鹿らしくなったサイの口からは、自然と乾いた笑いが込み上げていた。

「ようやく笑ってくれたけど

 楽しくなさそうだね、サイお兄ちゃん」

 突然、少し拗ねたような少女の声が聞こえた。忘れる訳もない――それは親友マルタの声。

「マルタなのか!? そこにいるなら姿を見せてくれ!」

 幻覚でもなんでもいい、今は自分を一人だと思いたくなかった。サイは無人と化した街を縋るように見回す。しかし依然として人影が現れることは無い。それでも、彼が求めてやまなかった彼女の声だけは近くに感じる。

「サイお兄ちゃんってば、ずっと泣いてるんだもん。

 いつ笑ってくれるのかなぁと思ってたんだよ」

「泣いてなんかいないよ。 

 だって君と二度と会えなくなった訳じゃない。

 またいつか会えるのに、悲しむ必要なんて無いんだから」

 そう言いつつサイが自分の目元を触ると、濡れた頬を伝ってとめどなく涙が溢れていた。いつから泣いていたのかと振り返ってみれば、ずっと昔から泣いていたような気もする。

「ああそうか――本当は、僕も初めから分かっていたんだ。

 もう君と二度と笑い合えないってことを」

 そう呟くと、自分が休むこと無く研究に明け暮れて、わざと盲目的に生きてきた30余年の理由に納得がいった。

「昔はおもちゃ作りが楽しかった。

 皆が笑ってくれるだけで楽しかったよ。

 だけどそれは全部、僕の一番の友達のマルタが側で一緒に笑っていてくれたから楽しかったんだ。

 だから、君がいない現実を認めたくなかった僕は、まだ君がいると信じたかった。

 だけど――君はもう、死んでしまったんだねマルタ」

 サイは自分でも気が付かなかった心の内を虚空に向かって語りかけた。言い終わると同時に、今まで感じることの無かった陽の光の眩しさに目が眩みサイは目を閉じる。長い間研究に没頭していた彼にとっては朝も夜も関係なく、天気を気に掛ける余裕など無かったのだ。陽射しの暖かさに慣れた頃に目を開けると――そこには、膝をついたサイと同じくらいの背丈の女の子、マルタが居た。

「うん。マルタも悲しいけど、一緒に笑い合うことはできない。

 だけどね、サイお兄ちゃんがちゃんと前を向いて生きてくれたら、マルタはそこにいるんだよ」

 そう言って、泣き止んだサイの顔を覗き込んで微笑む姿は昔のままだった。

「前を向いて生きないと、一緒にいてくれないのかい。

 ――どうりで、今まで寂しかった訳だ」

 マルタの笑顔につられて、サイも自然と微笑む。

「うーん、この装置みたいな物はおもちゃじゃないの?

 サイお兄ちゃんはおもちゃ作り以外ダメダメなんだから、無理しない方がいいよ」

「そうだね、本当に僕はおもちゃ作り以外失敗ばっかりだ……」

 そうして他愛もない会話をしながら、互いに互いの笑顔を見られたことが嬉しくて2人はしばらく笑い合った。

                    ◇

 白昼夢のような暖かい時間はゆっくりと過ぎて行った。冷え切ったこの街で、2人の声だけが熱を持っている。交わす言葉の切れ間にふと感じる街の静けさが、サイを夢から醒まさせるようだった。

「……まだ皆が戻れるうちに、オバケから戻してあげないと。

 マルタね、空の女神さまにお願いしてたの。

 サイお兄ちゃんは悪い事をしようとしていたんじゃないです、許してくださいって。

 そしたら、さよならを言えたら許してくれるって言ってたよ」

 サイの不安を感じてか、彼から一歩後ろに下がり寂しそうに笑う。

「だから……ばいばい、サイお兄ちゃん。

 楽しそうにしているお兄ちゃんが好きだよ」

 サイは立ち上がって、マルタを真っ直ぐにとらえながら言葉を告げた。

「ありがとうマルタ。また会うことが出来て嬉しかった。

 君に応援してもらえるような生き方をするから、どうか見ていてほしい」

 サイは自分の頬を熱い涙が濡らしていることに気が付いた。

長い年月をかけて求めていた奇跡が、自分の一言で終わってしまう。この時を手放したくないと心が喚いていた。それでも、今を生きていこうとする覚悟の芽生えが、彼の口を動かす。

「それじゃあ――――ばいばい、マルタ」

 サイが精一杯の笑顔を作って言い終わると同時に、街の空気がパキパキと軋みを上げた。命の気配が色濃くなるにつれて、笑顔で手を振るマルタの輪郭は、陽の光に溶け込んで消えて行くのだった。

                    ◇

 気が付くと、サイは大勢の人が行き交う街の喧騒の中に立っていた。何ことも無かったかのように過ごす街の人々の様子を見届けてから、発明品を抱えて家路につく。

 すると、公園の近くを通りがかった時に子どもの声がサイを引き留めた。どうやら彼が持っている装置が珍しかったようで、「なにそれー?」「どう使うのー?」

 と無邪気に問いかけてくる。サイはその場で腰を下ろし、30年かけて作り上げた装置を解体して簡単なおもちゃを作った。

「ほら、導力仕掛けの蝶だよ。

 風に乗ってどこまでも飛んで行けるんだ」

「すごい!」「どっちが遠くまで飛んでいくか競争しようぜ!」

 子どもたちは口々に声を上げて、サイが作ったおもちゃを手に取って行く。青空に舞う導力仕掛けの蝶を眺めながら、サイは子ども達と一緒に笑い合うのだった。

 

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